■俳諧「奴凧」

江戸河原鳥も朧に北へ発つ           佐藤 春生

音も無くひと雨ごとに春の苑          吉沢緋砂子

雪解けの屋根より落ちるリズムかな       鈴木 翠葉

雛納めみつめる顔をくるみたり          勝  太郎

目があった鶫つぐみの声は弾んでいる  小林 今浬

不意打ちの雨につまづく紋白蝶           松山 我風

■短歌「合歓の会」   久々湊盈子 選

気の早いツバメが駅舎に余念なく巣をかけはじめ今日から五月   《選者詠》

夜明けまえ夢のきれはし追いかけて行きつ戻りつ鳥の声聞く      野口 貞子

大谷翔平結婚速報駆け抜ける政倫審の影は薄くて           天野 克子

お一人様も何とかなるよ思い出と少しの元気と好奇心あれば      木村 博子

十二歳のわれに「よろしく」と言いくれし優しき声の義姉が身罷る   羽毛田さえ子

友より賜たびし自費出版の随筆集『茗荷の天ぷら』よき香を放つ    荘司 幹子

■川柳「暁子の会」       米島暁子 選

晩学の脳と心に水をやる       《選者吟》

まだまだと息を吹き込む古い鞠     中山 秋安

エプロンの妻がスキップボーナス日   髙橋 和男

お月さま取ってとせがむ小さな手    鈴木 綾子

酒よ酒心とろけて夢の中        藤田 栄子

酒を飲みワインのような赤い顔     木間 弘子

酔った父必ず唸る浪花節        板橋 芳子

乾杯の泡と笑顔に良い宴        花嶋 純代

ほろよいでおハコを歌うここち良さ   花島 和則

面白く楽しく生きる老いの知恵     血矢 行男

手を広げ抱っこをせがむ初節句     寺澤 秀典

コロナ禍の三年白いカレンダー     福家 明恵

■つれづれ句会 ― 投句 ―

おお欠伸やんわり温し木の芽時

包丁の銘透くほどの河豚御膳       鳴 砂


夕映に急ぎ仕度が厨事

桜見て夫つま居て作る豆ご飯       波

 

春昼の欠伸車内を移り來て  

花づかれ宿の夕餉の酒の酔い      三 島

 

春を待つ心にありて優しさあり

春風はまっすぐ俺は道曲がる       甲

いくたびも本読みさして春日遅々

花なずな児らを遊ばす声とどく      旦 暮

 

メヒコへも日本の友より花便り      雅 夫(メキシコ)

亡き妻と夢でドライブ春いずこ    

*例年だともう汗ばむほどの気候なのに、4月に入ってもまだ朝夕ヒーターが必要な毎日です。

 

風の陣たちまち去りて散るさくら

山菜は母のうんちく木の芽どき       輝

 

早よう寝て季節感じてよう食べヨ嘘のない母の言葉の重たさよ

枝つめし紅梅りんと一枝咲く        しげみ

 

木の芽時母のカミナリ孫縮む         悠 心

 

土手に咲き風に揺れてる菜の花よ       かもめ

 

剪定の人に声かけ春を知る

鶯の声聴かぬ歳の久しけり          卯 月

 

大試験道尋ぬるに消防署                  火 山

流鶯りゅうおうに八十路耳目を研ぎ澄まし   美 公

濃き緑紅あかき椿の映えし色           敬 直

磯笛の聞こゆる浜や鳥羽の海              荘  子

不合格告ぐる電報大試験               ちか子

春の海汀に残る泥団子             紀 行

牡丹の芽ひそやか伸びて法華経寺           光 子

朝霞ぬっと出て来る電車の灯           かおる

お水取り火の粉蹴散らし闇を飛ぶ         一 憲

柔き風鶯来たり森の道              義 明

制服の広がる歩道春の朝             恵美子

 

小夜更けて浮世の雑事憂いごとさらりと脇へお休みタイム  風知草

 

庭先の八重の老木蕾つけひと日毎に春はふくらむ 

満開の櫻木より道の端のねじり花に春は宿りぬ     一 蝉

 

笑顔でもどこか神妙甘茶かけ

敬老のカラオケバスや山笑う    佐藤 隆平

 

イスラエル ハマスの種を播き続け

この国はカタカナばかり持ち込むね   沖 阿

■莢さやの会 ― 投稿 ―
あたしの二上山      東 恵子

飛鳥の名残 石舞台古墳

ゴッツイ巨石の組みかさなりは 威容

その向こう……遠く 幽かすかに 二上山が臨めた

大津皇子みこは 二上山の雄岳に眠る

すでに馬酔木あしびは消え 笹の群落に守られ

こじんまりした墓石には 品格があった

大津皇子は漢詩を一つ 残している

  西日は家々を照らし 太鼓の音は

  わずかな命を 責め苛むごとし

  死出の旅には 連れはなく

  この夕べ この地を 去る

飛鳥古京を守る会 全国から集まった五百名近い会員

互いに目をうるませ復唱した 何度も

お経より お題目より 辞世の漢詩

白い泡々した馬酔木より 笹の群落

解散15時 民宿へ戻る班は 再度 口遊くちずさみつつ

ぞろぞろ歩いた

 
柿の種      湊川 邦子

あの時

紫陽花の葉の中から柿の葉が

顔を出しているのを見て びっくりした

柿の苗は15センチほど伸びていた

こじんまりした一株の紫陽花のどこに

柿のタネは潜んでいたのか

友達からもらった紫陽花の株だった

 

あれから………柿の苗は友達の元に届けた

尊いおかたの恩ちょうのように

喜ばれ舞いもどった

あの時の柿のタネ

時には思いおこしたくなる

苗はどのくらい伸びたか

葉は色がわりしてはらりと落葉したのか

夏には青々と葉が茂るだろうか

もう今年あたり実をつける頃かもしれない

 
桜によせて      ユニ

少し遅れてお花見に

見上げる花の間から 青く小さい空が覗いている

左右の舗道からは 通りを塞がんばかりに

ゆったりと伸びる枝が交互に美しく重なり 自然の

織りなすそのパワフルな重層感に圧倒される

宛さながら華麗なショーの圧巻のフィナーレが眼前に!

 

春という春を席捲したかと思えば 一夜のうちに

地べたを這う身となり 一瞥もなく踏まれても

逍遥としてみえる桜のことが この時期は気になって

しまうのです    桜よ 永遠なれ