都会での「高齢女性の一人暮らし」を始めて、数か月。
当初は、なんだか人生にほとほと疲れきってしまった、みたいな心境だった。
おかげでかなりの期間、ほぼ、なにもできずにただ横たわって過ごしていた。
けれど、春と共に、立ち直り始めている……。
これには、驚いた。
年をとったのだから、気力がなくなっても仕方がない、と思っていたのに、
なんとなんと、ふたたび気力が湧いてきたのだ。
気が付くと、スタスタと歩いたりしている。
そう、膝が痛かったりして、ソロソロとしか歩けなくなっていたのに。
今はそれなりの歩幅で歩き、急ぐときは自然と小走りにもなる。
一時は「とても、もう仕事もできないわ」という気分だったけれど、
どういうわけか……。
東京に戻ってきたら、あれこれと仕事を頼まれるようにもなった。
リタイアのつもりが、気がつけばそれなりに忙しくなっている。
思えば、万年フリーランサーだった私は「定収入は国民年金5万円」の身の上なのだ。
「結婚しとけばよかった」などと思ったりもしたけれど、あとの祭り。
でも、まだ仕事ができそうなので、ほんとよかったと、ほっとした。
そんな私に、息子が言った。
「お母さんはね、心配しなくて大丈夫。食べていけなくなったら、家を売却して、
そのお金でシルバーに入居すればいいんだからね」と。
「シルバー」というのは、家から徒歩3分のところにある高齢者ホーム。
ここは、私がかつて取材に通っていた場所で、ついには近所に引っ越してきて、
父や母がお世話になった高齢者ホームだ。
三十代から延々通い続けていたこのホームでの体験は「母のいる場所」というタイトルで、
私は本にもしている。
そんなわけでこのホームは、いずれは私も入る場所。
おかげで、なんだかずっと親戚のような気分でいた。
東京に戻って、すぐに遊びに出掛けたら、即刻「ホームでお茶会を開いて」と頼まれた。
そんなわけで、自立型のお部屋で暮らす入居者の方々と、
ケーキとコーヒーのお茶会などをさっそく開いた。
楽しかった。
聞けば、ホームには、目下、九十歳代の方々が多い、と。
さすが百歳時代の到来といわれている通りらしい。
しかも、ずっと一人暮らしをしていた方たちが、自ら、そろそろここにと自分で決断して入居する人が多いとか。
ともあれ、ここは長く共に暮らした父や母の思い出に満ちた場所。
あちこち旅をしてまわり、ついに、私は、ここに戻ってきた。
戻って来て、私はなんだかほっとしている、と気が付いたのだった。