■俳諧「奴凧」

一番咲き前途明るし冬の梅       佐藤 春生

物欲は袋で捨てて春近し        吉沢緋砂子

佐保姫のまばたき程の風の音      鈴木 翠葉

枯れ薄すすきうなずく如く風にゆれ   勝  太郎

川凍てて静止画面の里の山       小林 今浬

独り身の鬼打豆を持て余す       松山 我風

■短歌「合歓の会」    久々湊盈子 選

町川にひとふでがきの白鷺が立つ夕まぐれ明日は雨らし    《選者詠》

若者がわが両脇を駆けゆけば風のにおいのふとけものめく    助川さなえ

「ありますよ」万両の実が庭隅に今日のお客はメジロとスズメ  杉  清美

石畳に轍の深き摩滅あとポンペイの午後しずかにかげる       木村 博子

隣人に聞こえるように雨戸繰る今日も元気とがたぴしゃさせて  田中 秀子

歌唱力落ちたる夫の歌声が風呂場の外まで洩れて恥ずかし    羽毛田さえ子

■川柳「暁子の会」      米島暁子 選

預金帳百まで生きるのに足りぬ    《選者吟》

何よりも恐いスマホの電池切れ     桶谷 康子

チーバ君鼻の下だよ僕の家       福家 昭惠

松茸の道は誰にも教えない      藤ノ木辰三郎

世界地図国境線がゆれている      津田 健而

いえ飲みで予習復習紅葉狩り      山崎 君代

今朝も晴心うきうき老いの春      血矢 行男

うきうきがあって人生最高だ      中山 秋安

春風にうきうきした日遠くなる     鈴木 綾子

いい仕事終えて俺様縄のれん      髙橋 和男

男女とも恋が芽ばえりゃ天国だ     藤田 栄子

雨嬉し相合い傘が出来るかも      木間 弘子

■つれづれ句会 ― 投句 ―

命あるものは沈みて冬の水

ガレージに押しつけながら野梅咲く      甲

 

聞き流すこと身につけて朧かな

言はぬ事あれど伏して枯葉舞ふ        波

 

季節ときは早や早春なりき梅二輪  

カーブする車両にタンポポ手が届き     鳴 砂

 

春寒し妻病む事の多ければ

雪予報ばかりや古里くにの友思う        三 島

 

「早春賦」鍵盤にぶる指

犬ふぐり舞い上がれ宙より青く        輝

 

往きは晴帰りは雨の冬日和

降る雪の大きさ眺めて日は暮れて      卯 月

 

ぴんころとこの世去る夢なずな粥      火 山

能登の町生いきよと祈る寒紅梅         美 公

大洋おおうみを押し上げ昇る大初日       敬 直

初電話無事を聞くとも地のうねり       光 子

どんど焼き火影夜空を押し上げる       紀 行

小春日にひたりのったり鄙のみち      一 憲

畦道の地蔵様にも屠蘇の杯        荘 子

辰年の三代揃ひ初詣            ちか子

鳥の声静寂な森に春祈る          義 明

寒風や瓦礫を越えて海に消ゆ        恵美子

 

春兆しうす紫に空滲む

ひと月もたてば人人ひとひと桜路       旭

 

給湯水の温もりを待つ数秒間早まりて知る春は間近かに    風知草

淡雪がひとひら舞いてまた舞いて庭木を覆う雪の羽衣

赤鬼は食べずに逃げたか中庭に朝陽をあびて豆だけ五粒     一 蝉

 

カランコエ蕾をつけて春を待つ       悠 心 

 

窓あけて白く積もるや春遠い         かもめ

 

着服は襟なし愛用議員たち

半島まひ車も人も動けない         沖 阿

■莢さやの会 ― 投稿 ―

熱割れ      東 恵子

熱愛……もはや砂塵のかなた? いいえ

    それほどでは

熱風……この街で浴びた記憶はない

熱割れ……熱割れ!? 初耳の現象だ

ある日突然ガラス戸に大きなひび割れが生じる

 

ガラス戸は公共の所有と許りに 無理矢理

サッシ更新を承諾させて 熱割れとは

無傷の 強く逞しかった彼らは いったい

どこに行ったのか

熱割れ 次はわが家かも知れないと 怯おびえる

私は おぞましい

熱割れ 青春小説の題名にふさわしいなどと

佇む私は もっと おぞましい 

 

日差しと水滴が綾なすもの虹  

          湊川 邦子

花に水やり

私は虹をみた

虹も私をみた

虹がほほえんだ

私もほほえんだ

胸の奥がジーンとした

あたり一面のやさしさに

そっと包まれて

花に水やり

そのお返しに虹

明日が待ちどおしい

日差しと水滴が綾なすもの虹