ついにお気に入りだった那須の木の家を出て、
私は誰も住まなくなった東京の実家へと戻ってきてしまった……。
今回は、いつものように衝動に走ったというわけではない。
それなりに自問自答を重ねた、とは思う。
思うが、結局はその決断もかなりいい加減だったような気がする。
「ここに戻りたくなったらまた戻ればいいわけだし、その時はその時よね」
という感じだった。
それなのに、空き家になった二世帯住宅の家に一人でいたら、
なぜか積年の疲れがどどっと出てきたような妙な状態になった。
部屋のソファに横になり、ただただテレビを見ている。
那須に居る時は、暇だからといって、テレビなど観なかった。
けれど、自分の家で、ただただ流れてくる映像をなにも考えず漫然と眺めて過ごしたりしている。
それは、それで、それなりの安らぎはある。
そう言えば、昔、定年退職後の男性たちの取材をした時に、なんにもしないで、
毎日ごろごろしていると、妻に「見てるだけでうんざりする」と言われると、愚痴る人が多かった。
実際に自分が経験すると、一つのことが終わると、次にはすぐには進めない。
つい、ごろごろしているだけになってしまう人の気持ちがよくわかる。
高齢になると、そうスムーズには人生の方向転換はできないのだ。
ともあれ、いったん、休憩。
そうでなければ、先には進めないみたい。
今回は、私には、あれこれ考えた末の決断、とも言えるし……
ついに考えるのが面倒になって放棄。衝動に走ってしまった、とも言える。
どちらにしても、基本、自分がなしたことには後悔しない主義なのだけれど、
今さら新しいスタート台に立っちゃってどうしようというの? という気分が入り混じっている。
でも、なにやらウキウキした気分もあるにはある。
要するに、
私は「同じ場所で同じ生活をする」、そういうことができない性分なのだと、今さら思い知った気分でもある。
思えば、結婚も続かなかったし、
仕事も続かなくて、転々としてしまったし、
住むところにも落ち着けないし、
フリーランサーと言えば聞こえはいいけれど、
つまりは元祖フリーターという生き方をずっと続けてきてしまったというわけだ。
それでも、なんとか暮らし、子どもも一人育てた。
自分のこれまでを振り返れば、奇跡のようなものよねえ、と思う私だ。
今後もどう展開するのか皆目分からない。
でも、まあ、なんとかなるでしょう、と、
自分に無責任なような、でも妙に殊勝なような……
そんな気分で、今年の春を待とうと思う。