■俳諧「奴凧」

岩峰に紅葉張り付く那須の山      佐藤 春生

横ならび色合いくらべ赤とんぼ     吉沢緋砂子

風吹かぬ時の淋しさ猫じゃらし     鈴木 翠葉

ござ敷いて赤飯なりと赤まんま     勝  太郎

冬隣熊の寝床はまだ空家        小林 今浬

1人づつ去りゆくベンチ暮早し     松山 我風

■短歌「合歓の会」        久々湊盈子 選

疫癘えきれいも鳴りをひそめて秋晴れの佳き日ひさびさ銀座を歩く    《選者詠》

友の顔六十年ぶりに思い出し抹消線引く卒業名簿              近広秀一郎

星占いの予想できそう病床は九階の窓星が見えます             山崎 蓉子

生業を替えんと決めしかの時よ知命過ぎてもなりゆきまかせ         大江  匡

残り時間定かでないが薄ぼけて遠くが見えるわが目のごとし         黒沼 春代

丈高くそこここに紫苑咲きつぎて肩の力をゆるりとほどく            津田ひろ子

■川柳「暁子の会」            米島暁子 選

シナリオにない生き方が好きになる   《選者吟》

ご無沙汰の人からもらう年賀状     福家 昭惠

勉学に悔いなく励め師の言葉      寺前 絢子

好きなだけねたりおきたり学んだり   山崎 君代

八十路坂余命伸ばすは川柳よ      谷畑  顕

どんどんと私も友も惚けてくる     板橋 芳子

胸を打つ太鼓の音が響く夜       鈴木 綾子

秋の雲夢運んでる飛行船        髙橋 和男

遅く来た秋の背後を見れば冬      花島 和則

やっと来た秋をしっかり抱きしめる   中山 秋安

戦争をやめぬ愚かさ泣けてくる     藤田 栄子

笑顔して夢はなす子が宝もの      花嶋 純代

■つれづれ句会 ― 投句 ―

冬帽をどうかぶろと九十路です

いただきてすぐ爪立つる青みかん       甲

 

秋深む八つ割白菜胸に抱き

検針員石蕗眺めて行きにけり         波

 

山茶花のいまだ乳首や冬浅し

貴婦人に蝉の抜け殻浅き冬          鳴 砂

 

何か用あれば行くよとメール来て勇んで茶菓子を買いに出る       風知草

 

久々に星座ほゝえむ秋の空

自らを励まし誉めて冬に入る             卯 月

吸う息の喉に冷たく目覚む朝身じろぎて聞く木枯らしの音

欅路黄色に染まりて我街の秋は日毎に深まりぬ         一 蝉

 

秋の旅叔父の不始末伏して詫ぶ           火 山

お帰りと濡れし母の手栗おこわ         美 公

露路の奥匂い香ばし秋の風             敬 直

雁が音の向かう先には宿ありや        荘 子 

日が暮れて空屋あきやの芒すすき垣根越え 善 彦

痩せ秋刀魚大根おろしに身を隠し        一 憲

風もなく紅葉散る日や山しづか         紀 行

若き日の友も傘寿さんじゅや秋うらら    光 子

気が付けば今朝は涼しき森の風        義 明

病棟の一喜一憂秋の月              恵美子

自販機に歩行器具使い夏通ふ        ちか子

 

雲海の彩かすぎるなすの山

強風に地をはい再花秋桜            輝

 

日だまりで我が手に見入りシワの数      悠 心

長年のズボラのせいで入れ歯になり

うさぎ年飛躍せずとも日々感謝        石 井

 

霜月や暖かい日々色づく実           かもめ

 

もう一年まだ一年かの年の暮れ

物価安インバウンドに知らされる(給与の低さで)     沖 阿

■莢の会 ― 投稿 ―
「偲んで」           東 恵子

行儀が悪い かも知れないけれど 偲んで

午前三時 終の住み処で直進40歩二往復

ジャムパン一個が美味しい

皿ですする牛乳が 美味しい

懐かしい 奈良市 秋篠寺 技芸天

お顔を わずかに左へ傾け かすかに口を開き

腰を右にひねって……

懐かしい 信州伊奈のコムラさん

経緯は忘れた 秋篠町バス停 二人して

バスを待つあいだに ジャムパン一個と

テトラパックの牛乳を 楽しんだ

興奮を鎮めるために 名残惜しさを薄めるために

速やかに 速やかに

信州伊奈のコムラさんは女児二人のお母さん

文芸的な何かと思うけど とどのつまり

どうしているのか

寒流         ユ ニ

忍び入る冷気に気付く夜半

寒流が冷やす空気が 夜沿岸一帯を覆う

(昔)友人のご主人が海岸にテトラポットを積む

昼時 幼ない子供達と昼食を届ける

砂浜で広げる手作りのお弁当

手の届く幸せをいつも大らかに享受していた

暫く会えない間に病が進行していた

泣いてばかりいる妹に〝あの世がどんな所か見にゆくだけ〟と言って宥めていた

職場の同僚たちは同様の喪失感を分け合った

友人の死は子供達を自立へと促し 

常時酒気帯びのご主人から 忍耐強い庇護者を取り上げたのだった