私は、ついに運転免許を更新するのをやめてしまった。

そして那須で購入した愛車、エイブリイを思い切りよく売却した。

ようやくローンを払い終えて、ほっとしたとたんのこの暴挙。

「ナニヲヤッテイルンダ、ワタシ……」とは、思う。

思うけれど、

実は私には、あえてそこまで自分を追い込まねばならない事情が生じているのだ。

想定外のことがいろいろあって……。

なんと東京の元の家が空き家になってしまったのだ。

そうなったら、家は売却するつもりではあったけれど、

いざ、売るのか……と思うとつらくなる。

38歳の時から、母を介護し、母を亡くした後は、父と二人で暮らし続け、

そして、看取った。

そのいろいろあった自分の人生の本拠地だった家をなくしてしまうということが、

思いがけないほどに悲しい。

この喪失感ゆえ、私は、6年続いた那須での暮らしを捨て、東京の家に戻ることにしてしまった。

いや、そう決意をしたつもりではいるのだけれど……。

どうも気持ちがぐずぐずしている。

そもそも、那須では車の運転ができないといろいろ不便。

どこにも一人で、好き勝手に出掛けられなくなる。

でも、東京に戻れば、車なんかいらない、一人でどこへでも好きに行けるし…

…ということで、あえて運転免許も更新せず、車も売却し、退路を絶って、

東京に戻るゾ、という決意を自分で自分に促したのだ。

そんなわけで、

目下、東京の家に戻り、せっせと玄関前の掃除をしたりしている。

すると、通りかかった近所の知り合いに、しみじみと言われる。

「やっぱりねえ、戻って来たのねえ」と。

久し振りに電話をした友も言った。

「自然豊かな地方に移住したり、海の傍のマンションに移り住んで、海を眺めて暮らす、

と言っていた人が、結局は戻ってくるのよねえ」と。

確かに、空き家になった元家に帰ったら、なんだかわからないけれど、

ほっとした気分になって、力が抜けてしまった。

なぜかひとりでも寂しくない。

そう、家の中のそこここに、思い出が潜んでいる。

外に出て、行き慣れた郵便局に行ったり、コンビニに寄ったり、

駅前のベンチに座って行きかう人を眺めているだけで、なんだか元気になる。

ふと、思った。

これって、帰巣本能というものか、と。