■俳諧「奴凧」
天高し赤い帯巻く尾瀬の山 佐藤 春生
名月や庭の草木に子守唄 吉沢緋砂子
彼岸花棚田百枚海に落つ 鈴木 翠葉
明日よりは新米なりと妻のいふ 勝 太郎
徒競走父母の声援天高く 小林 今浬
天高し里にまだある心張棒 松山 我風
■短歌「合歓の会」 久々湊盈子 選
つゆの世はつゆの世ながら朝くれば眉引き紅さしよそゆきを着る《選者詠》
この嘘に傷つく人はいないけどチクリと痛むわたしの心 荘司 幹子
十年余夫の介護を続けきし友がなくさぬユーモアに泣く 羽毛田さえ子
刻々と形かえゆく雷雲に自在に生きる学びを得たり 木村 博子
坂道を一気に風きる爽快さ銀輪の恩恵返上近く 天野 克子
土壇場で六方踏んでとどまりてまだ大丈夫と安堵するなり 野口 貞子
■川柳「暁子の会」 米島暁子 選
ひ孫来る行進曲が鳴り止まぬ 《選者吟》
辛いこと笑って超える肝っ玉 寺澤 秀典
スポーツに大和魂たたき込む 血矢 行男
夏は海冬はスキーの青春譜 板橋 芳子
穴あきの俺のジーンズ超高値 髙橋 和男
大切に大切に着た父のシャツ 花島 和則
墓参り母の大事な着物着て 中山 秋安
古着でもリメークをして見違える 鈴木 綾子
ナフタリン昭和の服の懐かしさ 藤田 栄子
年かさね先人の智恵習う今 花嶋 純代
古日記涙の跡も残してる 桶谷 康子
いやな事水に流して笑います 中津 和子
■つれづれ句会 ― 投句 ―
風の息枯れ葉舞落つ欅かな
秋桜や遠筑波嶺に雲一ツ 三 島
急ぐことないと身に言いつ落葉掃く
木漏れ日に晴れて広がる秋の空 波
黄落に身を隠してや里の雉子鳩はと
真白にて目に錘して百日紅 鳴 砂
秋の風のせてゆくは夏の想い出
くつしたのくたくたの月明りかな 甲
久遠なり在の黄落紙すきて
バラくずれ微風に香りうずまきて 輝
すすき野に千の花びら舞う如くモンシロチョウの名残りの宴
土手の辺にタンポポ一輪返り咲きすすき野風は優しく揺らす
風知草
初抱きの曽孫に泣かる秋の声 火 山
浪江町主ぬし無き庭に白き菊 美 公
十六夜いざよいや猫とたわむる影絵かな 敬 直
新秋や石庭手入れす修行僧 光 子
虫の声真上にスーパーブルームーン 紀 行
縄文に思いを馳せる栗柱 一 憲
贈られしもろこし蒸しつ手紙書く 善 彦
外風呂の月のお客をすくいたる 荘 子
何願ふ何も願わぬ神の留守 義 明
風天の似合う江戸川野菊晴 恵美子
*渥美清の俳号
砕かれてさゞめく波に甦る逝きし人々の声活きくと ユ ニ
屋根打つひと雨毎に冬近し 悠 心
虫の声陽射しさすや布団干し かもめ
陽を浴びて黄葉こうようを増しつぎつぎと艶やかに見えし秋の訪れ
お太助
老いの日はつつがなけれど七度めの注射の便り只今届く
我クラス皆高齢者この次も達者で会おう再見再見
一 蝉
並木路に鳥の大群秋の暮れ
栗ごはん今は昔のなつかしさ 卯 月
馬鹿犬に何時も散歩で吠えられる
ユニクロに晴着一張羅死語になる 沖 阿
■莢さやの会 ― 投稿 ―
ガチャン 東 恵子
ベゴニア センパフローレンス
葉色は銅葉系
繁栄の奥襞から いきなり せせら笑うのは
マドラーのマドさん
「もはやだめかと捨てようとして 覗いたの
健気にもピンクの小花が一つ二つ咲いていて
急にあなたのことが懐かしくなってしまって」
と またせせら笑う なんてこった
ベゴニア センパフローレンス 葉色は銅葉系
創作仲間の結婚 出産 日常生活 その
ことごとくを せせら笑い続けて今日に至る
彼女はだいぶ年嵩の筈 今 手もとに 何が
残っているのだろう
「皆さんと集まりませんか その時は
声をかけてくださいませんか」 だって
空恐ろしい 皆んなまだ勤いそしんでますよ
ガチャン!何の音? 連結を外した その音
「もはやだめかと捨てようとして」 は
痛恨の前置詞 よ
駅 ユ ニ
「おみ足がご不自由のようにお見受けしましたが
駅へいらっしゃるのでしたらお送り致しますよ」
乗用車の中に笑顔の女性が
徒歩で12、3分の駅へ父と向っていた時のこと
其の日父は余り遠慮を見せずそのご親切を有難く受けた
駅は申し訳ないほどすぐに見え始めた
父は女性の置いたセカンドバッグの下へためらいもなく
お札を一枚忍ばせた
却って失礼では?との危惧は拭えなかったが
感謝で一杯だった
深い愛着を持って家業に勤いそしむ父
見慣れた周囲の労いたわりは疎おろそかになっていた
春風の中の冒頭の言葉が美しい