■俳諧「奴凧」
みちのく路大歓声や秋の虹 佐藤 春生
日ざかりに出て行くほどか思案して 吉沢緋砂子
身の丈の萩の小道や百花園 鈴木 翠葉
父母ちちははの乗り給ふ茄子箸の足 勝 太郎
ひと葉ずつ装い始め秋の山 小林 今浬
海女小屋に酌みし一献月の酒 松山 我風
■短歌「合歓の会」 久々湊盈子 選
嗚呼、嗚呼と鳴き交わしつつ帰りゆく生涯喪服のカラスひと群れ 《選者詠》
眠れない夜の夢にくる姉羽鶴ヒマラヤの峰ゆうゆう越えて 助川さかえ
おしろいの匂いがするゆえ名を持つと教えし母を思う夕暮れ 羽毛田さえ子
早天の庭に顔出すながむしに植木もろとも水かけてやる 木村 博子
ハモニカの和音を巧みに吹きならし戦友偲びいし父のおもかげ 天野 克子
わが体温こゆる暑さの昼下がりかげろうの中に招く人あり 野口 貞子
■川柳「暁子の会」 米島暁子 選
頼られているから元気付いてくる 《選者吟》
芸磨く舞台の上が生きがいに 花嶋 純代
百面相赤ちゃんだから出来る芸 板橋 芳子
花ジュータン踏みしめ歩む老いの坂 藤田 栄子
読むたびに昭和の気分サザエさん 桶谷 康子
信長も皆既月食見たロマン 福家 昭惠
月食に近所集まりはずむ夜 中津 和子
赤い糸あの子と結ぶ神だのみ 谷畑 顕
糸たどり人と繋がる仲間でき 寺前 絢子
ランドセル旗に守られ登下校 山崎 君代
無芸でも健康と言う宝もの 鈴木 綾子
四季折々花時計から癒される 髙橋 和男
■つれづれ句会 ― 投句 ―
この世でもあの世でもなし星月夜
長き夜の起き出してくる腹の虫 甲
受話器からはじける元気白寿の声
百歳の慈愛にみちた佇まい 石 井
太巻きは母の十八番で端が好き
断捨離の番組を観てやる気出す す ず
根苔むすケヤキ並木に腰掛けて涼風吹き渡り深山幽谷を思う お太助
この街に残る藁家の柿紅葉
草紅葉祠小さき道祖神 三 島
稲光り母にだきつきしゃくりなく
秋の庭竹とい水脈のししおどし 輝
かなかなやこんな夜もある独り飯
厨水流して静かちちろ泣く 波
房総の土用波見にバイク駆く 火 山
空き瓶は何処から来たか土用波 美 公
遠雷や子等こらに腹巻そっと掛け 敬 直
うな重を待つ床几台柳葉ゆれ 紀 行
朝焼の磯の鳥居に人・人・ひと かおる
売店のすだれ侘びしや土用波 荘 子
北の地の華やぎ風のアマリリス 光 子
土用丑人呼ぶ習らわし牛知らず 一 憲
夏休み孫ら来ぬかと待ち侘びる 善 彦
雷神さんほえよ歌えよ雨降らせ 義 明
大雷雨自転車漕ぎて逃げ惑ふ 恵美子
稲妻の早や鬨の声夏の陣
こころなし蝉にもあるか暑気当たり 鳴 砂
墓参り雨ピタリやみ手をあわせ 悠 心
青い柿爽やか吹くや秋風よ かもめ
緑陰に深呼吸して安らぎぬ
満月や四方に光線放つ景 卯 月
〝命守る〟防災報道溢れ来て不安いや増す老のひとり居 風知草
我部品傘寿過ぎての不具合を共に過ごして一日終わりぬ
虫の音に覆われし庭一匹のつくつく法師ひとしきり鳴く 一 蝉
満杯だ財布にポケットカード増え
日本海中国漁船操業中 沖 阿
■莢さやの会 ― 投稿 ―
レモンスカッシュ色の…… 東 恵子
居た 居る 輝いている
なぜか緊張する
東の空間に 満月
思いっきり太陽に照射され
マッ キーキーに 光り輝いている
午前三時半 満月は西南 日頃は富士山の
居る方向 もはや懐かしい
午前五時半 居た 居る
満月は輝きを落として 西の空間に
レモンスカッシュ色の丸い まん丸い 月
手元に 貼って はがせる付箋紙 ひときれ
残る なぜ 何だっけ
昨夕は満月が気になって 気もそぞろ
ああ 貸した詩集 好きなかしょ 三つに
付箋紙を貼る約束が と 律儀なMさん
ひときれ届けてくれた
レモンスカッシュ色の丸い まん丸い 月
付箋紙 ひときれ わたくしの 今
八月の終りに ユ ニ
さっきまで甲高い声で鳴いていた数羽の鳥の
一羽が気紛れな風のなすがまま 巨体を
揺らしている木々のひとつに 吸い込まれるように姿を消していった
ふんわりとベランダに絡まるどこかの卵焼きの
甘いかおりが 買い忘れているコーヒーを思い出させた
地球規模の気候変動 自然災害による
各地の悲惨なニュース
多くの被災者の難儀に いずれ我が身にも及ぶ危惧に一度も耳にしなかった蝉しぐれに戸惑いながら
記憶に残して2023年の夏を静かに見送ろう