■俳諧「奴凧」

山菜で酒が進むや木の芽時         佐藤 春生

積みし書を捨てるか思案春の宵       吉沢緋砂子

晩鐘の余韻微かや糸桜           鈴木 翠葉

線香の煙あちこち春彼岸          勝  太郎

黄砂ふる卑弥呼の秘密隠しきり       小林 今浬

騙されたふりもよきもの四月馬鹿      松山 我風

■短歌「合歓の会」      久々湊盈子 選

奈良岡朋子死してサリバン先生もワーリャもニーナも共に死にたり 《選者詠》

コロナ禍のじゃまなマスクも有難し花粉飛び交う時期の散歩は   野口 貞子

この一首に触発されしと友からの祝いの手紙に勇気の二文字    田代 鈴江

上位陣欠場のなか春場所の優勝争い混沌として          天野 克子

「認知気味」は免罪符となり約束を忘れたことも咎められない   羽毛田さえ子

はらはらと白梅散れば去年こぞ逝きし君が泣くかと思えてならず  木村 博子

■川柳「暁子の会」      米島暁子 選

頼られて今日も元気な足になる       《選者吟》

妻の尻支える椅子は辛かろう        血矢 行男

物価高諭吉逃げ足速いこと         板橋 芳子

じいちゃんは鬼のパンツで気合入れ     中山 秋安

世話役が丸くおさめて安堵する       鈴木 綾子

旅帰りやっと落ち着く家のいす       寺澤 秀典

よちよちがママから逃げる好奇心      木間 弘子

苦労から逃げるばかりじゃ実らない     藤田 栄子

木の椅子に座って食べて半世紀       花嶋 純代

もれ出した噂の蛇口閉まらない       桶谷 康子

持ち歌はイントロが好き夢芝居       谷畑  顕

百までは夢を持つ事忘れない        中津 和子

■つれづれ句会 ― 投句 ―

仰ぎ見る花の美しき見頃かな

なにもかもを笑いとばして春の空           甲

 

鯉泳ぐ団地広場や若葉風

風筋の白くざわ立つ欅かな             三 島

 

彼の地でも日本の野球花開きアメリカ下し春を迎える お太助

 

行く春や路地裏歩く一人旅

踏むまじと通る小道や椿落ち              波

 

ベランダを掃き拭く妻や風ひかる            火 山

東京にボストン抱え春下宿             美 公

老梅とうなずき合いし来し方を                敬 直

紅梅の咲くも静かや禅の寺             光 子  

 春うららまごの手をひくここちよさ         荘 子

沈丁花部屋一杯のにほひかな             ちか子

公園の汽関車に乗り春の旅             善 彦

春光やひとり荷ほどく四畳半            かおる

行く春や天橋立生野道               紀 行

漆黒に宙飛ぶ火の粉お水取り            一 憲

凍てる夜をいかに過ごすやウクライナ        義 明

三月や怯え縋る手焼夷弾(東京大空襲)          恵美子

 

花吹雪うでにタトゥーのエトランゼ

灯を消して年金生活おぼろ月             鳴 砂

 

藤の房長さ競えし縄のれん

まどろみつ唱歌聞き入る春の朝             輝

 

愛し孫娘あこ十五の春は眩しくて心清らに生きよと祈る   風知草

 

ひとときのやよいの空の宵桜風散らすとも漂う余韻   ユ ニ

 

春彼岸早や一周忌の祈りかな

見上げればやさしく月虹ほほえみて          卯 月

 

樹々の葉が重なり揺れる陽の中で桃色提灯八重桜さく

着るものが1枚減りて脱皮する蝉にあらねど我にも春が  一 蝉

 

春嵐朝日差しさくら散り                 かもめ

 

黒田節飲むも飲んだり国債を

気が付くと戦前回帰の前触れだ(教科改定)             沖 阿

 

 

■莢さやの会 ― 投稿 ―

 

南の空で輝いて           東 恵子

午前五時の習わし カーテンを開け放つ

暗いだけの 殺風景な闇に 目を凝らす

少なからず慌てた 三月十五日

南の空で くっきり

真半分の月が とどまって

……あ あれは 下弦の月

満月を過ぎ 西側から欠け始め

ころあい良く 潔いさぎよい 形で

真夜中に東から昇った

今 まさに 南の空で 輝いて

昼ごろ 西に沈み行く

わたくしは 家事に勤しむ時をむかえ

台所へ 去る