■俳諧「奴凧」

堀に浮く桜紅葉や亀が愛で          佐藤 春生

秋蒔きの畝ととのえし老いの鍬        吉沢緋砂子

わが旅路一走一景冬近し           鈴木 翠葉

貨物車に線路のすすき首を振り        勝  太郎

会話なく小春日縁側それもよし        小林 今浬

馥郁の風を抱きをる菊人形          松山 我風

■夏日俳句会         望月百代 選

姉よ兄よ召されし冬の空の蒼       《選者吟》

噛みしめば奥歯の疼く十二月         井川 美江

小春日や猫の寝てゐる無人駅         井土絵理子

七五三眼下の港凪ぎてをり          岩下三香子

冴ゆる夜や幾度も見上ぐ蝕の月        太田 住子

冬もみぢ前よりもなほ人恋し         河野 悦子

リモートの面会石蕗の花咲けり        佐藤 弘子

モンサンミッシェルのオムレツに似た秋の雲 佐藤 隆平

枇杷の花今日の運勢子に言はれ        鈴木 るる

背に首に十一月の寒さ来る          築  幸枝

歩みつつふるさと思ふ刈田道         恒任 愛子

秋惜しむ押し花に本重ねつつ         都丸れい子

学舎へ届く波音石蕗の花           間部美智子

指先に残る柚の香電車待つ          丸澤 孝子

影法師踏みつつ帰る酉の市          渡辺 紀子

■短歌「合歓の会」      久々湊盈子 選

ふところにふくふく小猫を抱くようなモヘアのセーター北風の日は     《選者詠》

あのころが幸せだったと悔いぬようひと日の無事に祝杯あげる       羽毛田さえ子

還らない今日という日の日の暮れに燭台のごと杜鵑草ほととぎす咲く   助川さかえ

「里の秋」「かわいいかくれんぼ」流れきて耳に懐かし昭和に浸る    天野 克子

彩りを増して明るき町のなか歩みてゆけば秋はたけなわ         野口 貞子

平凡な日常を幸と思うほどテレビの中にはミサイルが飛ぶ        田代 鈴江

■川柳「暁子の会」         米島暁子 選

才媛の妻です少し疲れてる           《選者吟》

百年へ八十路の壁どう超える           谷畑  顕

手を繋ぐ丸い輪になるみな笑顔          寺前 絢子

人生のガラクタ捨てて深呼吸           山崎 君代

微笑みに気づいてほしい恋心           中山 秋安

娘の恋を妻はうすうす感じ取り          血矢 行男

窓開けて花から元気もらう朝           木間 弘子

今年こそ万馬券だぜ菊花賞            髙橋 和男

花一輪添えて美人に写してね           正木ふう子

できたかな娘がやけに色っぽい          寺澤 秀典

焼かれてもいつか大地へ花が咲く         花島 和則

秋の空何があっても挫けない           板橋 芳子

■つれづれ句会 ― 投句 ―

真青なる空より散りし欅かな

濯われて強ばる服や冬の朝           三 島

 

抱かれゐてしかとはなさず千歳飴

ごみぶくろ枯葉の息にくもりけり         甲

 

白萩の三日待たづに散り始じむ

鯵叩く来る日来る日の夕支度           波

 

新米やダイヤのごとく輝きて          悠 心

 

早朝に星眺めるやウォーキング         かもめ

 

愛犬に赤い座布団冬じたく

さあ来いと夜空にさけび冬じたく         輝

 

万両の赤 いちょうの黄 ポケットに

冬めく日布団干す窓開け放ち          かすみ

 

ピンク着る少し優しくなりたくて

セーターを編む無心になれるから好き      す ず

 

かたりかけ振り向くあなた見つめ合うネコの眼差し見つめるあなた

きれいな手触れてみたいと思いつつ圧倒されるいのちの力    お太助

 

コロナ禍の別れくやしや釣忍            火 山

山裾に鴉一鳴き熟柿じゅくしかな        美 公

露草に睨まれ鎌の手が止まり             敬 直

千年の石碑の刻字秋深む          光 子

背広着てぶぜんと立つは案山子かな     荘 子

兼好を笑ひし友よ秋逝けり         ちか子

妻と佇つ水簾の谷響む淵          紀 行

褒めらるる節酒禁煙秋の暮         かおる

雨上り黄金の月ぬっと出る         善 彦

月替わりさゆらぐ水面赤とんぼ       一 憲

木洩れ日を拾いて歩く森の道        義 明

秋光や古傷一つ解けるなり         恵美子

 

冬支度はや兼六園縄仕事

九十九里の浜の賑ひ鱗雲          鳴 砂

 

小春日を直送便にて届けたし戦禍に凍る遥かな国へ

食卓の窓辺に映える黄葉は季節限定特別メニュー    風知草

 

老いの日は想い出めぐる風車苦楽まざりてみな懐かしき

グーグルでたどる故郷寺を過ぎ沈下橋脇に我生家あり   一 蝉

 

歳重ね気力ありしが身の辛らさ

声かけの友の笑顔に前を向く              卯 月

 

災害は忘れる間もなくやってくる

記憶力東大院卒抜群だ(山際前大臣)           沖 阿

 

■詩人の会 ― 投稿 ―

 

全マルだよ        東 恵子

全マルだよ 今日から全マルの日々

ファンファーレを鳴らしたい

ペケはベランダに何も干せない

三角は在宅なら多少何かを干しても良い

住民へのお知らせは 今日から全てマル印

すでに黒幕は畳まれた

すでに鉄パイプの解体も 終わった

さっそく小っちゃな赤とんぼが 東から

やって来た ほんのごあいさつ……

仲間を待たずに西へ行ってしまった

午後わたくしはベランダへ出る

お色なおしのフロアーを しずしず踏んで

手すりに掴まった

うろこ雲を ふり仰ぐ 先頭は東か

姿が変わる時 ふと 風の気配を感じる

次にスーッと 何もなくなった

あしたもあさっても自由にベランダを使える

淡い喜び これも 平和の範疇でしょうか