8月末に原っぱで初の野外人形劇の公演を決行することとなった。

そう、サービス付き高齢者住宅の入居者たちで立ち上げた自主サークル。

こういうシルバー人形劇団というのは、たぶん、他にはないだろうなあと思う。

それが、私としては嬉しい。

しかも、本物の原っぱに本物の草や笹や萱や木の枝を使って野外人形劇舞台をつくろうとしている。

それができたら、もっと嬉しい。

そんなわけで、ハウスの敷地内にある音楽室で練習を開始したのだった。

毎週木曜日、午後1時半から3時半まで、今のところ順調に練習が進んでいる。

集まった人たちは「この指とまれ!」方式の呼び掛けに応じてくれた男女合わせて十数名。

むろん、高齢者と呼ばれる私たち。

いずれも、人形劇なんて、見たこともない、やったこともない、という方々ばかり。

しかも、登場するのは、すべてキラワレモノの虫たち。

カマドウマ、カメムシ、スズメバチ、青虫、ジョロウグモ……。

その他に、カエルやヘビ、さらにものまね鳥のガビチョウ、ネズミ、などなど。

なんて話だ! という感じだ。

台本は、高齢者住宅のスタッフで、車を運転してくれているテニスの達人のサカタ氏が書いた。

彼の説によると、昆虫というのは、人間などよりもずっと進化していて、

宇宙と交信する能力の高い生物なのだそうだ。

演出を担当する私としては、もう少し台詞化しないと内容が伝わらないんじゃないかと相談してみたが、

「昆虫は決して喋らない!」と拒否されてしまった。

なんとか、両生類のカエルと爬虫類のヘビは喋ってもいいことになったので、ちょっとホッとしている。

この舞台に登場する人形たちは、すでに入居者たちで手分けして出来上がって

いる。それぞれが分担してつくったので、大きさがまちまちではあるものの、いずれもびっくりするほどの出来映えだ。

物作りに長けた人が多く、発砲スチロールや紙粘土、針金や鉄線、

さらにペットボトルなどなどを駆使して、器用に作ってくれた。

そして、主人公は少女のように天真爛漫な高齢者住宅の住人、81歳のうりさんだ。

そのうりさんが、原っぱに遊びに行ってみつけた青い色のヘビを追いかけて、

舞台に飛び込んだとたんに小さな人形になってしまう。

その人形になる前の生身のうりさん役がなんとなんと、

「こんなのに出て、人前で演技するストレスに耐えられないよ」と言って、

さっさと役を降りてしまった。

練習の1回目にしての出来事だった。

致し方なく、責任者の私が責任を取って代役をつとめることとなった。

やってみると、確かに本当にストレス。

困ったなあ、と思っているのに、息子が東京から子どもたちを連れて観に来る、

なんて言う。家族が来るなんて、小学校の学芸会で「舌切り雀の舌を切られる雀」の役をやって以来のこと。

でも、あっという間に夏が始まり、いまや、もうやるしかない事態だ。

なにごとも責任を取るというのは、大変なことだなあ、

としみじみ思う私なのである。