一年で一番美しい季節が訪れた、というのに……。
暗い、あまりに暗い。世界が……。
神経がざらついて、みながだんだんと虚無的になっていく。
にもかかわらず、まずいな、と思いつつ、中毒になったみたいに私はテレビを見てしまう。
見れば、画面にはミサイルが飛び、砲撃で悲惨な姿になった町の姿を繰り返し見るわけで、
その度に、なんでこういうことをするんだろう、
なんでこういうことになるんだろう、と怒りとむなしさを繰り返してしまう。
高齢者ばかりのコミュニティで暮らしていると、先輩たちには、戦争体験者も多い。
ロシア兵に追われ樺太から家族と逃げてきたとか、
東京大空襲の中を逃げまどって親とはぐれたとか、
そんな思い出したくもないつらい記憶が蘇ってくる、という人もいる。
ロシアのフェイクニュースに、
「日本も戦争中はこうだったんだよねえ、国民は大本営発表だけを信じてねえ」などと繰り返す人も。
いつも一緒に、食堂でご飯を食べている友人は、
「ああ、もう、早く死にたい、世界中こんなんじゃ、いいことないじゃん」
などと言う。
「いやいや、そういうことを言わないで、ね、ね、やっぱ生きていてナンボでしょうが……」と私が言うと、
彼女ときたら、向きになって言い募る。
「なに言ってるの、私が生きていてもどんな意味もないわよ。天涯孤独だし」
「ちょっと、ちょっと、待ってよ、私がさびしくなるよ」
「あなたはさびしくなんかならない。みんなで人形劇とかやっちゃって、どうせ楽しくやるでしょうが」
「もう、ただでさえ気分が暗いのに、そういうこと言わないでよ〜」
と、ついにはけんか腰になったりする。
小さな世界のストレス、大きな世界のストレス、どれもこれもがごっちゃになって、何が何だか分からないこの頃だ。
今日のテレビでは、巨大大陸の傍らの小さな日本のその地図を映し出していて、
日本海でロシアがミサイル実験、北朝鮮もミサイル実験、中国による台湾危機もありそうかも…、
などと識者たちが言っている。
こちらも「約束していたって、いざとなるとアメリカも、頑張れと言うだけで助けてくれそうじゃないし……」
などと、つい思ったりするわけで。
メディアはとかく刺激的なところへ、不安を駆り立てるがごとく話をもっていく。
ずっと平和ボケで来たのに、いまさらどうしろって言うのよ、という気分だ。
ともあれ、戦争がコロナを吹き飛ばしちゃったような今のこの事態の中で、
人々が密な地下室に、身を寄せあっていたりするわけで、医療の行き届かない戦場で、
コロナ問題はどうなっているんだろうとか、
頭の中がさらに混沌としてしまう。
先日、友人の部屋にいったら、
私のちっちゃなポータブルテレビの6倍くらいの大きな画面で、彼女がテレビを見ていた。
これでは、私の6倍、悲観的になっちゃうよ、と思った。
そんなさ中に、私はころんで膝を痛めた。
「膝のために、ふらふら歩かないでハウスでおとなしくテレビでも見てなさい」と言われた。
でもエネルギー危機になるそうだから、しばし節電でテレビのスイッチを切って安静にしていよう、と思う。