■俳諧「奴凧」

春一番白波踊る安房の海     佐藤 春生

日めくりを三日も忘れ春うらら  吉沢緋砂子

白魚や遥かに霞む帆掛け船    鈴木 翠葉

矢の如く落ち来る雲雀菜の畑   勝  太郎

独り酒湯豆腐の揺れ艶めかし   小林 今浬

星落ちて天使の化身犬ふぐり   松山 我風

■夏日俳句会         望月百代 選

春の夜のにぎり鋏の勝手佳し   《選者吟》

春昼や地蔵通りに馬油買ふ    井川 美江

春愁や新キリン舎はガラス張り  井土絵理子

三椏咲く母の遺せし父の文    岩下三香子

木の皮の捲れ激しき春北風    太田 住子

風光る行き交ふ人も軽やかに   菊井 節子

女系なり小さき庭に梅と桃    北村  綾

霾やキエフと言ふ名の遠き町   河野 悦子

掃きよせて塵に貝殻花曇り    佐藤 弘子

城巡り良き時代語る桜かな    佐藤 隆平

初音二度しづかな暮し戻りしか  鈴木 るる

啓蟄やラジオ体操より始む    築  幸枝

田楽や話題ゆらゆら屋台なる   恒任 愛子

追伸に添へる一言春の虹     都丸れい子

春北風どんと構へる鬼瓦     間部美智子

ふきのたう水の底まで空の色   丸澤 孝子

池底に鯉の背透くる納税期    渡邊 紀子

■短歌「合歓の会」    久々湊盈子 選

ウクライナ侵攻の朝香りよきロシアンティーを飲みしか彼は          《選者詠》

医療逼迫テレビにあおられ迷わずにモデルナワクチン接種を待ちぬ       川上 頼枝

奈良みやげ一刀彫の立雛の面差しやさし亡き母に似て             木村 博子

「酒盛りをしよう」と毎夜向き合いて一合八勺たちまちお開き        羽毛田さえ子

肺がんの疑い晴れて帰りしな売店で買うウナギ弁当              田代 鈴江

風さむく春は名のみと思えども陽射しのなかに温さ伝わる           野口 貞子

■川柳「暁子の会」      米島暁子 選

肩書が取れ父親の顔になる    《選者吟》

何故だろういつも支える側にいる 正木ふう子

いつからかうちの柱はお母ちゃん 寺澤 秀典

出過ぎずに支えることの難しさ  野崎 成美

好きな物食べてる夫とがめない  鈴木 綾子

古ぼけた父の手帳に有る重み   髙橋 和男

十五本シンビジュームが咲き誇る 板橋 芳子

手帖には私の秘密ひそんでる   藤田 栄子

やり遂げてゆっくり休む今が良い 血矢 行男

本物の味を見つけに旅に出る   花嶋 純代

少々と医者がうるさい塩加減   花島 和則

幸せは支え合う友たんといる   中山 秋安

■つれづれ句会 ― 投句 ―

息入れて立たす折鶴春隣はるとなり 

草も木もあかるき左岸猫の恋      甲

 

暴虐に反対署名をしたけれど空しさ募る螳螂の斧

国境の別れのシーンにもらい泣き無事であれかし生きて幸あれ     風知草

 

雛の燭ゆれし面輪や卒寿妻

彼岸とて墓所にも行けぬ老いし我   三 島

 

風の名の変る暖あったか立話      波

 

雪掻きの一人に加勢出て来たり     火 山

 

老梅の命の証しこぶほこら       敬 直

 

切り株に腰を屈めて春一番         美 公

 

紅梅を一輪添えて志野茶碗          一 憲

 

羽生舞うクワッドアクセル氷上に    紀 行

 

病みに伏し妻に感謝の冬の床     善 彦

 

雪の降る街に砂塵や春待たる      光 子

 

早春の光をまとふ乙女像       かおる

 

梅さきてものも言わずにながめおり  義 明

 

遠き日や新任式の春の雪       ちか子

 

我が道を信じ貫き残り雪         恵美子

 

落ちてなお華やぐ椿路地そめて     輝

 

雪解し春待ちわびて蕗のとう    いぶりがっこ

 

温もりに侘助眺め通る道       かもめ

 

災害を忘れし頃か春日和

老いらくの恋もあらんか夜よの花屋  鳴 砂

 

紅白の匂ひは静か梅見上ぐ      

春疾風ニット帽を忘れた日      かすみ

 

チチっと鳴く小鳥の声にいやされし

月見あげ何を祈らん憂きこの世    卯 月

 

教師より年上揃いの我クラスコロナ接種の数語り合う

断捨離で見つけし日記を日溜りで戻らぬ日々に立ち返る午後    一 蝉

                   

思い出は思い出せねば消えている

転んでもただ起きないは遠い過去   沖 阿