私が住んでいるのは、「サービス付き高齢者向け住宅」と呼ばれているところ。

先日、コロナ禍で久しく休止していた入居者の運営懇談会が開かれた。

この懇談会で、勝手に立ちあげた「原っぱ」プロジェクトの進行状況を説明し

なくちゃねえ、と思いたった私だった。

今まで、そのことを思い立たなかった私も私だけれど。

思えば、この一年で草ぼうぼうの野っぱらに、小さな奇妙なガーデンハウスを

4つも建ててしまったのだから、びっくりされてもしかたがない。

当然ながら「あの人たち、な、なにをするつもり?」と、

皆、いろいろ思っていたわけで……。

しかも、トールペイントサークルのメンバー5人で、

ガレージ風の小屋の正面全面に描いた大きな細長い5つの家の絵、

これが目立つことこの上ない。

当事者たちは「やったあ~!」と達成感に浮かれているけれど、

まわりにしてみたら「あれは、なんだ!!」という感じかも。

通りかかった近所の人から「な、なにができるんですか?」と聞かれたりするし、

わざわざ遠くから見に来る人も。

ここは入居者の方々によく説明をして、

「原っぱ」を気に入ってもらわなくちゃあ、と思う。

しかしながら、私は子どもの頃から、人前でしゃべるのが苦手。

学級会のようなところで発言などもってのほか。

しゃべるのが下手だから、致し方なく物を書くという表現の道を選んで生きて

きたのだった。

まずは、ハウス長に相談をした。ハウス長と言っても30歳の若者なのだけれど。

彼に「あのさあ~」と聞いたら、彼曰く、

「要するに、人前で説明する緊張がイヤということですね。

ならば文章に書いてそれを配ればいいんじゃないでしょうか」と。

なるほどねえ、というわけで、懇談会の前日に「原っぱ」の説明文を書き、

元編集長のチェックを受け(こういう場所には、多様な元職業の人が住んでいて頼りになるのである)、校正済みのビラ70枚を印刷し、各戸にポスティングを行った。

私が取材に来て衝動的に移住したこの住宅は、なかなか素敵。

緑の木々にあふれたコッテージ風の二軒長屋が中庭を囲んで並んでいる。

A棟からE棟まで5つのエリアをぐるぐる回っての作業だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

プロジェクト仲間が各戸のポストの口を開き、そこにすかさず私がビラを挿入。

ビラを入れる度に「は~い、ここが○○さんチ」「ここは××さんチ」と

いちいち住人の名前を読み上げつつ、途中、ところどころで、ついつい立ち話。

空き室や契約してはいるけれどまだ入居していない方々の家を除けば、

即刻、名前を聞けば住む人の顔が浮かんでくることに驚いた。

私が暮らし始めて3年数カ月が経過。

いつの間にか私もすっかりこのコミュニティの一員になっている。

しかもここにいるのは、ただの住人ではない。

いわば運命共同体の面々、人生の晩年に奇跡のように出会ってしまった人たちだ。

人生を重ねて、これからずっと助け合って生きていかねばならない人同士。

このコロナ禍で、なんだかぐんと絆が深まったということを自覚した私だった。

来週はみんな一緒にワクチン接種。

それを2回終えたら、「原っぱ」ではなやかにビアガーデンを開こうね、と熱い約束を交わしているのだった。