うっかり立ち上げた「原っぱ」プロジェクトのせいで、
自然の中でのんびり余生を送るはずの私の日々は激変してしまった。
「原っぱ」には、ガーデンハウスなる小屋がふたつも建ち、
それはそれで、嬉しいのだけれど……。
そのハウスを発注したガクちゃんが言う。
「あのさ、経費節減なんだよねえ、
色塗りは、自分たちでやるって確か言ってたよねえ」。
「そんなこと言ったっけ?」と、とぼけるわけにもいかない。
そんなわけで、目下、ペンキ塗りに明け暮れている。
とにもかくにも、家の色塗りなんて人生で一度もやったことがない。
まずは、お隣の町の白河市(福島県)のカインズに、
ペンキやら各種刷毛やマスキングテープやらを買いに出かけた。
一斉メールで「ペンキ塗りを手伝って」と発信したけれど……。
「手伝いたいけど、散歩するだけで大変なんだから」とか、
「基礎疾患があるから、コロナウイルスなどにかかったら、
生存率20%と医者から言われている身なんだよ」とか、
「要介護認定されて訪問介護のヘルパーさんに来てもらってるんだゾ」とか、
「アルバイトで忙しくて、それどころじゃない」とか、
なにしろ、私の住んでいるのはサ高住。
一応高齢者施設なのだった。平均年齢73歳。
でもよく考えれば、わがニッポン国を動かしているあの閣僚たちと同世代。
ちいさな過疎地の「原っぱ」ぐらい好きに動かせなくてどうするの?
という感じでもある。
が、このサ高住は、住んでみて知ったが、独特な場所なのだった。
みんなが「究極の自己中心を貫いて生きる権利」があると信じている場所。
なにごともやりたいヤツが、やればいいさ、
やりたいヤツがいなければ、やらなきゃいいさ、がコンセプト。
一日中、引きこもっていても文句も言われず、放っておいてくれる、
そこが素敵な場所でもあるのだ。
プロデューサー役の私としては、
「一人でもやるわ」の覚悟がなければ、実はなにもできない。
「できなくてもいいや」と思っているからこそなんでもできる。
そういうところなのだった。
というわけで、目下、ペンキ塗りに励んでいるのは、
塗るのが大好きなトールペイントチームを中心に
「尋常じゃなく元気ねえ」と呆れられている3、4人。
そんな場所であるにもかかわらず、
「原っぱ」プロジェクトの目玉企画である野外劇場での
人形劇公演の期日はすでに決まっている。
来年の5月下旬、那須の最も緑の美しい季節に、と。
まだまだ遠い遠い先の話よね、というべきか、
そんなにすぐで間に合うの? というべきか、
その見定めはついていない。
こういう先の見えなさというのもなかなかお気楽なことだなあ、
と思うようになった私である。