シニアが寄り集まって暮らす場所の気楽さになじんでしまったせいなのか、
私は最近、なにかと「おバカ」なことばかりをやって周りにあきれられている。
たとえば、先日、朝、目覚めたとたんに、散らかりきった部屋をなんとかしようと思い立った。
一度に全部やるのは大変だから、まずキッチンから。
この一年、一度も使わなかったものは、すみやかに必要な人へあげるなり、捨てるなりして、
すっきりさせなければと思い立った。
そう、日々、断捨離。これをしないと、物が増えすぎて散らかってくる。
そんなわけで、流しの下や、食料をストックしてある戸棚を覗いてみた。
なんと、なんと、存在を忘れたまま封も切っていないお米の袋とか、
いただき物の上等な乾物食材とか、蓋もあけていない調味料の瓶とか、あるではないか。
捨てるには忍びない。
ここは、まずお料理好きの自炊派のご夫婦に使ってもらおうと、紙袋を抱えて部屋を飛び出した。
それが午前9時。
その家は、年中、コーヒーを飲みに行ったり(ここには、すごいコーヒーマシンがある)、
ビールを飲みに行ったり(ここには、すべてのお酒が揃っている)。
いわば、コミュニティ内にある私の実家、という気分になれる場所なのだ。
とは言っても同世代ですが……。
ともあれ「ねえ、これいる?」と聞いたら、「パンを焼いたんだけど、いる?」と返されて、
焼き立てバケットを2本ももらい、
さらに「コーヒーでも飲んでいけば」と言われ遠慮なく上がり込み、
なんだかんだと話し込んで、一時間半。ハッと気づいて部屋に戻ったら、
案の定、部屋の入り口は開けっ放し。
毎朝の儀式の「目覚めたら郵便受けの正面にニコちゃんマークを出す」のも忘れていた。
通りかかった人に言われた。
「ハウス長が、どこにもいないって、あなたを探しているよ」。
ニコちゃんマークが出ていない時は、まず携帯に電話、
電話に出なかったら、部屋に入って確認、というルールがここにはある。
サービス付き高齢者向け住宅というのは、それをすることが義務になっている場所なのだ。
「開けっ放しだけど、携帯は鳴っても出ない(持って出るのを忘れていた)、
中で倒れているんじゃないかと部屋に入って探しましたよ~」なあんて言われた私だった。
さらに先日は、道端で隣人と立ち話していて、思いがけないいい話に及んだもので、
キャーッ!と言って、相手をいきなりハグしてしまった。
その瞬間、なんとなんと二人とも一緒に転げてしまい、
私は、鼻の下をベンチにぶつけて、膝を打って擦りむいた。
相手の彼女も尻もちをついたけれど、大事には至らなかったのは幸いだった。
その日、夕食を食べに食堂へ行ったら、事件はすでに知られていた。
「いきなりハグしたんだって! なに、女学生みたいなことやってんのよ!」
そう言われてしまったのだけれど、確かに歳を忘れての行為。
もう私たちはみだりにハグなんかしたら、危険な年齢だったのだ。
シニアばかりで暮らしていると、歳を思い知らされるというより、
実は世間から求められる「高齢者らしさ」からすっかり解放されてしまうのだ。
それが故に、分別というものを忘れ、なにかととんでもないことをやらかしてしまう、
そういうもののようなのである。