◆俳諧「奴凧」

 

鉄橋を渡る水面に盆の月        佐藤 春生

ほろ酔いや秋の静寂を胸に吸ひ     吉沢緋砂子

崩れ梁月も砕けて流れおり       鈴木 翠葉

看取り婦や明けて窓辺の虫の声     島村小夜子

かじか棲むふるさとの山訪ねたき    天立 美子

逃げ水を追いかけてみる川の道     勝  太郎

微笑みともぎたての梨友来たり     平井喜美子

考えごと吐息と共にひと葉落つ     小林 今浬

煩悩の色かと思ふ曼珠沙華       松山 我風

秋立つや芭蕉旅立つ覚悟顔       小檜山游生

 

◆夏日俳句会             望月百代選

 

医通ひの日々や荒地の月見草    《選者吟》

朝顔や水に流せぬこともあり      大石 洋子

秋愁や何するでなく粥炊いて      太田 住子

右読みのカフエの看板小鳥来る     長木 和代

秋暑し明日に延ばすあれやこれ     菊井 節子

雲に木にときの移ろふ新豆腐      河野 悦子

かまつかや祖父に習ひし刃物研ぎ    古在 路子

残暑きびし電話口よりビートルズ    佐藤 弘子

ことごとく裏目よ今日の月待てり    鈴木 るる

枝折戸の先は有料薄紅葉        築  幸枝

娘の指図的を射てをり今朝の秋     恒任 愛子

置去りの傘に蜻蛉止まりけり      都丸れい子

夕やみの静かに乗りし秋の川      西岡千代子

下ろし立ての雑巾しぼる涼新た     間部美智子

水門の冥き水音泡立草         丸澤 孝子

あまたなる予言に愁ふ秋時雨      吉田恵美子

我が国を目指すがごとき野分かな    米倉 典子

葬後の生活のもどる夕かなかな     渡辺 紀子

 

◆短歌「合歓の会」                                久々湊盈子選

 

脳(なずき)にも胸にも潜む「凶」の字を気づかぬふりして過ぎし歳月            《選者詠》

声高に歌って消ゆる憂さならばもっきり酒の一杯で足る                根本 晴市

手塩してなすびをしごき濃紺に染まりし手もて糠に押し込む              武川 修子

わが耳の奥なる虫と地虫らがここぞとばかり闇に鳴きたつ               中川 尚美

初産(ういざん)の娘の分娩気遣いて長い長い夜が明けゆく               菅野 恵子

くれなづむ蒸し暑き街をもとほればオレンジ色の星が昇り来(く)            藤原眞理子

 

 

 

 

 

 

 

 

◆川柳「暁子の会」                米島暁子選

ロボットに人情欲しいケアハウス      《選者吟》

恋に愛川柳人の若いこと            香曾我部智恵子

人生の主役は僕だ頑張ろう           水上 春樹

若い気でいるのに体置いてかれ         久保田あさ江

あの世へは遠回りして今傘寿          黒沢 道子

呪文かけ鏡の前で化粧する           久留井由利子

枯れ葉踏む大地と語る足の裏          鈴木 多美

八十路とて青春時代夢見てる          原  尚志

おかっぱでピースで写る昭和の子        山本 初枝

夢のなか母が私の名を叫ぶ            竹澤 郁子

平凡な田舎娘で嫁に来た             岩越千代子

 

◆つれづれ句会 ― 投句 ―

 

蝉落ちて踠(もが)く姿や老いの我

蟻の列踏まじと老いの歩変える            三 島

 

撓(たわ)みゆき撓み返りて青嵐

青葉萌ゆ限りを知らぬ命かな             春 水

*9月号の俳句に誤字がありました。正しくは「有(・)漏の世は 翅色次第黄金虫」です。訂正してお詫びします。

 

秋高し越後平野は黄金色               とにお

 

夏の花色鮮やかに咲きそろい

草むらで虫の音(ね)聴くや宵ごころ          かもめ

 

水割を揺らす氷の音楽しむ

雲の秋富士の碧江の島の海                清水 茂

 

ひとつまみ味は仕上る新甘薯

電車乗る芒ふれるる車窓かな(都電)          波

 

病む事の理非尽語る金鳳花             火 山

落ちセミや心に錐(きり)の刺す如く         美 公

削氷(けずりひ)や足の先まで染(し)み渡り      敬 直

夏夕べ女の集ふ白きカフェ             光 子

法師蝉遠くに聞きて熟睡(うまい)かな        ちか子

蝉時雨上総の森の昼下がり             かおる

被災地にせめてあげたい涼しさを          ひろこ

大屋根に登る苦瓜涼すだれ             善 彦

蝉の声箱根全山響きせり              孝 正

タンブラのかちんと鳴らし夏の恋          恵美子

 

えりあしの汗玉ひかる汗流る

椿の実割れて見えてる黒き種              眞 美

 

吹く風の涼しさ増して秋を知る

颱風の行手気になる夜明けかな             卯 月

 

五種類のきのこ炒めて秋の宵

彼の人に匂い届けとさんま焼く           かすみ

 

旅さがし迷わずむかう秋の宿

夢一夜(ひとや)洞爺湖の宿秋気配          桔 葉

 

秋の宿江戸へ一刷毛(ひとはけ)あかね雲

大役を終えし案山子のねんころり          鳴 砂

ふと見ると鏡の中に母が居る

虫の音が過ぎゆく夏を告げにけり          一 蝉

 

翳(かざ)す手の咲いて野におく吾亦紅

野々の端に這う朝顔に種子いっぱい          輝

 

一周忌母の日の品形見分け

個性ある姉妹の顔も老いて似る           す ず

 

政治家の半熟頭は困りもの             風 太

 

つべこべと云わず行動78歳あり

花まるを子供等に付けももこ逝く             沖 阿