♪夜空の星より、きらめくひとみ、
マシュマロよりも、やわらかなほっぺ
なんてかわいいおひめさま~、
こんな子守唄を毎晩聴いている。
枕元にCDプレイヤーを置き、繰り返し聴いていると眠くなっていく…。
それは、なんというか不思議な気持ち。
生まれた子どもに愛しさがあふれた時、その記憶が、孫娘が生まれて、蘇った時、
そして今、歳を重ね一人暮しになったら、自分もまた奇跡のように生まれ、
「なんと愛しい」と誰かを思わせたのよねえ、なんてことを思う。
すべての小さいものが愛らしいのは、
誰かに愛されなければ生き延びることができないから、という言葉を思い起こす。
実は、この子守唄は7年前に自主制作した「おねむりなさい」というCD。
その頃、私は友人とNPOの人形劇をやっていて、
その挿入歌の「不眠症のお姫様」を
眠らせる魔法の歌としてオリジナルに作曲してもらったものだ。
この人形劇は、母子寮や養護施設や子育て支援の場で公演していた。
活動費を得るためTシャツやトートバッグを作って販売もしていたのだが、
このCDもそのひとつ。
お母さんたちに歌ってほしいと、「お眠り保証付き」、「カラオケ付き」、
「楽譜付き」で、CDジャケットもメッセージも精魂を込めて作った。
こんなメロメロな歌を歌えば、きっと子どもが愛しくなるはず、
100回歌えばその分だけ、思いがつのる、そう信じて作ったのだ。
当時、子ども虐待事例が増加の一途を辿っていたので、
「虐待防止グッズ」なあんてことも思っていた。
けれど、思いばかりが先走り、販売能力もコスト計算もできないので、
結果、大赤字。
私が責任をとって引き取り、我が家の靴箱の上の棚やら、納戸を開けば、
今もそこにCDの入った段ボールが……という事態になっている。
NPOも、東北の被災地キャラバンを終えて力尽き、解散。
すべてが「あの頃は、頑張ったね、楽しかったね」
との思い出となってしまっている。
それがこの夏のことだ。
妊婦さんのサポートをしているニューヨーク在住の日本女性から、
突然、メールが入ったのだ。
「5年前に聴いたあの子守唄が忘れられません。
CDが残っていたら、10枚、送って」と。
私は、もう有頂天。
嬉しすぎてエッセイにまで書いたら、
イラストの彼女がノリノリで自由の女神像と音符を描き、
担当者が「ニューヨークに流れる子守唄」なんてタイトルを付けたもので、
聴きたい人があらわれた。
約2週間、私はメールが届くたびにCDを毎日、誰かに送り続けることになった。
ほとんどが「初孫のプレゼントに」という同世代の方だったけれど、
中に後期高齢者の男性の方から「自分が、聴いてみたいから」というメールが届いた。
そして、届いた感想がこれ。
「自分の人生のあれこれが走馬灯のように浮かび、癒されました」
なるほど、と思う。
そう、両親が逝ってしまい、一人になって聴く子守唄は、かけがえのない癒し。
誰かに愛されていた、との記憶ほど人を安らかにするものはない。
今回のことで、私はそのことにあらためて目覚めさせられたのだった。
■お知らせ
久田恵さん初めての小説「主婦 悦子さんの予期せぬ日々」(⑭潮出版社/1500円+税)が発行されました。定年夫、恋愛中の老母、パラサイト息子、シングルマザーの娘、熟年離婚をした弟……59歳の平凡な主婦、悦子さんを待ち受ける“想定外の日々”。誰もが何かを抱えながら、それでも懸命に生きていることに気づかされる1冊です。