子供の五感を鍛えるのは、自然の中での実体験

「読み・書き・計算」を徹底的に繰り返しても、応用問題は解けるようにならないばかりか、柔軟な思考を妨げる要因にもなるので、小学生にはあまりさせてはいけないと、前回書きました。

しかし、こんな意見も少なからずあります。「昔から、小学生の宿題は教科書の音読、漢字の書き取り、計算問題の反復練習が主流だったし、それで特に勉強には困らなかったよ」。
その通りです。昔から学校では「読み・書き・計算」を繰り返しやらされました。詰め込み教育と言われた時代も、ゆとり教育の時代も、宿題は反復練習が中心でした。学習に関しては何も変わっていないのです。

では、何が変わったのでしょうか? 生まれたばかりの子供の能力は、昔も今も同じです。学校の勉強も変わっていません。しかし、大きく変わったことがあります。そう、子供たちの育つ環境です。子育て環境が大きく変わったのです。
生まれる前から日常的にテレビがついていて、0歳からスマホをいじり、物心つく前から知育DVDをみせられ、エアコンの効いた室内でリトミック遊び、ショッピングセンターのゲームコーナーには子供ばかりかシニアまで群がっています。

五感を育てる大切な時期に、人工的な刺激ばかりを受けています。子供にとって大切な自然の中での外遊びや家の手伝いより、習い事や勉強を優先する家庭は少なくありません。服が汚れるから泥遊びはさせない。危険だからと公園の遊具は撤去され、不審者が多いから子どもたちだけで遊びに行くのは禁止。放課後は、遊びに行く前に宿題をしなさいと指導されます。
自然の中で遊ぶ体験が少ないのです。不便な生活の中で工夫するという経験が少ないのです。つまり、自分の頭で考えて行動する時間が絶対的に少ないのです。
たくさんのから揚げを、兄弟で平等に分けた経験があるからこそ、「割り算」を習うと理解できるのです。鍋に水を入れて食材をゆでた経験があるからこそ、「沸騰」「蒸発」がわかるのです。そして、小•中学校で習うことは、自然の中で遊んだ豊かな経験がベースとなるのです。

仮想世界で遊ぶ子供たち

 

実体験が少ない子供は、学校で習ったことを自分の記憶や体験と結びつけて理解することができず、ただ参考書と問題集で丸暗記しようとします。だから忘れやすく、何度も覚えなおさなければならないのです。学校で習うことは、単に「整理のための学習」です。

「蒸発すると水が増える」と思っていた子供に、「じゃあ、どこから水が出てくるの?」と訊くと、「グツグツ泡が出るところ」と、答えました。高学年の女の子です。

「電線ってなんですか?」

「往復ってどういう意味ですか?」

「鉄塔ってわかりません」

「半分の半分ってどれくらいですか?」

「でんでんむしってなんですか?」

「重りをバネで吊るす絵がかけません」

「蟻の足は何本ですか?」

「4倍って4つ多いってこと?」

これらは全部、小5~中学生たちの発言です。決して特殊な子供たちではなく、学校の成績には問題のない子供たちも少なくありません。ドリルや問題集では、たくさんの問題を解いています。机の上の勉強は十分にやっているのです。
足りないのは、様々な実体験です。学校で習う前に、たくさんのことを現実の世界で体験しなければいけないのに、小さいころから仮想世界で多くの時間を過ごしてきたのです。

「読み・書き・計算」の単純な刺激の繰り返しは、暗くなるまで外で思い切り自分の頭を使って遊んでいた昔の子どもたちには影響が少なくても、体験の少ない日常生活で頭を使っていない今の子供たちにとっては、複雑なことを考えられなくなる危険な劇薬となるのです。