風に吹かれながら、緑を眺めながら、

他愛ないことを話しながら…私の夏の贅沢


_園長850

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

網戸越しに入ってくる風に吹かれながら、外の緑を眺めながら、

「あ、鳥がきた」とか「木に果物刺そうか」とか「野鳥によくないよ」とか、

他愛もないこと話しながら、ちょっと飲んで、ちょっとつまんで…。

そんなとき、幸せな感じがします。

多摩にある奥さんの実家。

今は誰も住んでいませんが、

庭に野菜作りが好きだった義母の畑があるんです。

奥さんと休みが合えば、手入れをしに行く。

この夏も、一週間おきぐらいに通ってました。

草を抜いたり、野菜を採ったり、土を耕したり、

近くの農協で買ってきた苗や種を植え付けたり。

過激にやると、次の日、体が痛くなるんですけどね(笑)。

それから、トマト、きゅうり、ピーマン、コーン、スナップエンドウ、

シシトウ、じゃが芋……。

採ってきた野菜を、奥さんと一緒に料理する。

幅250野菜

 

 

 

 

といっても、トマトは洗うだけだし、スナップエンドウは茹でるだけ。

シシトウはウインナと一緒にさっと炒めたり、茹でてサラダにしたり。

じゃが芋は、掘ってから干すといいって言われますが、

自分で作ったのはそんなことしなくてもおいしい(笑)。

すぐ洗って、大きいのも小さいのも一緒に丸ごと蒸しちゃう。

皮がちょこっと捲れたところに、バター乗せたり、ドレッシングかけたり。

トウモロコシは大きくするのが難しいけど、

小さいうちに採って、さっと茹でると柔らかくてすごくおいしいんです。

これをつまみながらビール飲むのは、夏の贅沢。

多摩の家では、昼間っからビールです(笑)。

卵があればオムレツ作ったり、冷凍庫のソーセージ炒めたりもしますが、

ほとんど庭で採れたものばかり。

豪華なものは何もないけど、私には一番贅沢な食卓です。

でも、こんなふうに二人でゆっくり食事ができるようになったのは、

ここ2年ほどのことなんです。

結婚してすぐ、彼女のお母さんが病気になって、彼女が介護をすることに。

しばらく別居してたこともあります。

その義母が10年ほど前に亡くなって、今度は私の母が骨折で寝たきりになった。

これも巡り合わせでしょうね。

次は私が介護をすることに。

日中はヘルパーさんに来てもらい、朝と夜は私。

食事も、飽きないように少しでも目先を変えようと、いろいろ工夫しました。

普段は母が先に食事をすませ、それから私たちが食事するのですが、

どうしても気を使っちゃうんですね。

二人だけで笑ってるのも、なんだか悪い気がして。

母が亡くなったのは2年前。94歳でした。急なことでやはりショックでした。

まあ、そんなこんなで、二人の母を見送って、今は二人だけの時間。

とても大事にしてます。

とくに多摩での時間は、私にとって一番の贅沢ですね。

ただ、このところちょっと忙しくて、なかなか時間がとれないんですが。

土居園長2/850

 

 

 

 

 

 

 

 

 

上野動物園ではいま、改造計画を進めているんです。

基本的には、この環境の中で動物たちが、

できるだけ心地よく過ごせる空間を造ってあげたいと思ってます。

一番好きな動物?

それは園長として言ってはいけないことになってる(笑)。

ただね、例えばパンダにしても、座り方とか、食べ方とか、頭の大きさとか、

人間の赤ちゃんに似てるから可愛いんだと思うんです。

でもそんな見方だけじゃなく、

絶滅に向かって進んでいる動物の典型だと思って見ていただきたい。

パンダって熊の仲間でしょ。

それが進化の過程で、ほかの熊と違ってタケを食べるようになった。

だから、タケがある限り安泰なんです。分化すればするほど、タケでしか生きられなくなる。

逆に言えば、生き残るためにそんな戦略をとったから、絶滅危惧種になったわけです。

人間によってタケの分布地帯が分断されたり、

環境が変わってタケがなくなったりすれば生きていけなくなる。

生きものは全て、そんな仕組みを背負って生きてます。

人間も同じ。

この先ずっと生き残っていくには、

地球の限りあるエネルギーをできるだけ使わない生活を選択していかないといけないと思う。

贅沢な暮しを見直して、本当に人間らしい生活って何かということを、

みんなで考えないといけない時代がきてると思うんですよ。

パンダやなんかを見ながら、そんなことを思ってもらうのが我々の仕事だと思うし、

そんな動物園づくりをしていきたい。

オリンピックまでには、かなり変わりますよ。

(インタビュー:2014年9月9日)

どいとしみつ★プロフィール
■1951年東京都生まれ。恩賜上野動物園園長。千葉大学造園学科卒業。専門は、造園学、自然保護政策、動物園学。東京都首都整備局企画部に勤務。環境局生態系保全担当課長、自然公園課長として小笠原・御蔵島へのエコツーリズム導入など、自然保護の仕事を行う。2005年、多摩動物公園園長、2011年から現職。2010年首都大学東京客員教授に就任(兼務)。著書に「造園の事典」(共著/朝倉書店)、「東京都における公園緑地計画の系譜Ⅰ」(東京公園文庫)、「動物のヒミツ51」(共著/築地書館)、「大人のための動物園ガイド」(共著/養賢堂)、「野生との共存」(共著/地人書館)、「動物園学入門」(共著/朝倉書店)他。趣味は茶道(石州流)。