■俳諧「奴凧」
高尾山吹く風厳しい寒の入り 佐藤 春生
木枯しや若き日は過ぎ足早に 吉沢緋砂子
願い込め有り難し今初明り 川上 壮介
年賀状しまうと淋し友の声 勝 太郎
平穏は唯一の望みおらが春 小林 今浬
見馴れたるあの径この町初景色 松山 我風
■短歌「合歓の会」 久々湊盈子 選
風を得て高処たかどに遊ぶいかのぼり子の手にびんびん力送りて 《選者詠》
赤き服購かいたるもさてどこへ着て行かんかな誰訪わんかな 荘司 幹子
朝いちに脳の診断星五個の数独解きたり今日は明晰 羽毛田さえ子
さらさらとサハラの風紋手にすくいペットボトルに連れて帰りぬ 木村 博子
元旦に取り出す新聞その厚み配達員の苦労がずっしり 野口 貞子
寄る年波なにもせぬのに日は暮れて師走のニュースに心せかるる 杉 清美
■川柳「暁子の会」 米島暁子 選
衣食住足り恋をして元気です 《選者吟》
極上の皮肉をいなす笑い皺 吉田 貞恵
倦怠期ダブルベッドが狭すぎる 藤ノ木辰三郎
算数は難しいなと一年生 福家 昭惠
子の育ち待ってる頃が花だった 関 玉枝
駄菓子屋の棚をあさった幼き日 津田 健而
選挙のあと考え変わる顔変わる 山崎 君代
百歳も夢ではないとスクワット 鈴木 綾子
ぐっとくる耳に低めの彼の声 髙橋 和男
安心の顔取り戻す年金日 桶谷 康子
お菓子好き孫の栄養気にかかる 中津 和子
■つれづれ句会 ― 投句 ―
月へ行くそんな気がして観覧車
歩み来て道に悔いなし日向ぼこ 甲
過ぎたれば見上げる人のなき桜花
徒然や老いて何する日々なりて 波
風花やランドの空の反時計
冬の陽や水鳥の胸誇らかに 鳴 砂
畳替古新聞のあせた文字 昌 恵
煩わし事も大事に年始め 住 子
いつからか普段どほりの年迎ふ 裕 子
新装の駅に迷へり着膨れて かほる
亡き母の友に出会ひしお正月 晴 美
吾にある母の匂よ風邪の床 幸 枝
冬ざれの森奥に立つ女神像 れい子
初春や一人遊びの畑作り 美智子
初日の出彩なす光万華鏡
若水を孫に注そそぎつ謂れ説く 佐藤 隆平
大晦日メヒコでひとり蕎麦すする 雅 夫
「おめでとう」久しぶりです日本語は (メキシコ)
寒の入りつつむ指さっくにげる湯気
時間ときかけつく風花やふわり母のこと 輝
新春の華やぐ街の片隅で重き病を告げし人あり 風知草
仏壇の何やらかをるラ・フランス 火 山
蒼天をつきぬける黄き大いちょう 藍
缶ビール片手に瞑想除夜の鐘 敬 直
白くやさし十月桜や芝離宮 光 子
海悠々水平線に冬銀河 紀 行
柿落葉色濃く染まり画布の道 一 憲
張り替えし障子の軽き師走かな 彦いち
過ぐる日の想い出掘り出す除夜の鐘 荘 子
「要支援2」で立ち向かふ年の暮れ ちか子
冬木立心奥まで見透かされ 美 公
さらさらと去りゆく秋の止めがたし 義 明
枕元に新下着置く母の除夜 恵美子
天空の南に光る金星は都会まちにありてひとりぼっち
青空を薄紅うすくれないに染め上げて新しき陽はビルの彼方に 一 蝉
マンションの門松日当り良き場所に
初買いはミステリ大賞受賞作 旦 暮
シクラメン真赤な花のほほえみて
富士の山遠くに眺め手を合わす 卯 月
陽だまりで木瓜のつぼみは並び笑む
銀杏は母の自慢の茶碗蒸しへ しげみ
トランプに花札用意ゲーム変え
手品師だ難癖才能大統領 沖 阿
■莢さやの会 ― 投稿 ―
合歓の木 湊川邦子
朝 目ざめ 夜 ねむる 神々しい存在
ある日 何げなく目をやると……
赤いモノがチラリと見えた
近づいてよくよくみると 赤い玉が まるで
ブレスレットのような数珠のような形をして
枝から垂れていた
十数年前から育てているが初めての事だった
さっそく写真を撮った
友人や親せきに送った
中には
「知らなかったなあ
想像さえ出来なかった形と色
長生きはしてみるもんや
珍しいねむの木に うきうきしています」
暗いコロナ禍での明るい体験だった
ねむの木の 目ざめては眠る暮らしは
今も続いている
正月 永田 遠
インフルエンザになりまして
三日三晩は熱の中
四日四晩も床の中
天井ばかり眺めていると
世の中の楽しみはみな色褪せて
望む気持ちすら消え果てて
このまま死ぬのはどうにも損だと
ひたすら焦ってみるものの
重い布団に潰されて
ジタバタさえもままならず
観音様も現れず
思い出ひとつも浮かんでこない
寝ても醒めても闇の中
ああこれも怠惰な生の報いかと
反省しつつ一週間
処方の薬の切れる頃
もぞもぞ床を這い出して
うどんでも食うかと冷凍庫を漁る
終着点はどこ? 東 恵子
ぬり絵で遊ぼ と 誘われた
自我をそっと脇において
無心になれる ぬり絵
平塚のナオさんは「雫」
あたくしは「土」冬花壇のどまん中の「土」
広々と平ら すでに三色菫がまわりを囲んでいる
かたい土 やわらかな土
持っている色鉛筆を ぜーんぶ くり広げ
土の色に時間をそそぐ 心を集める あッ!
大切なことを忘れていた 球根!
今 浅い眠りか 深い眠りか解らないけど
冬花壇の一番の 賑々しい かわいらしい
子供たち チューリップの球根! を想像する
あたくしの 土の色は多彩 と 言わせて
塗って 考えて 終着点は今 どこ?
同じ方向 であって欲しいのだけれど