■俳諧「奴凧」
暮早し灯りも早し赤提灯 佐藤 春生
蓑虫や着替えはもたず糸一本 吉沢緋砂子
暮早し急ぎし子らの後に風 川上 壮介
所在無し昼飲みも良し冬日向 小林 今浬
無意識に足早となり日の短か 勝 太郎
たたなづく山の寝仕度整へり 松山 我風
■短歌「合歓の会」 久々湊盈子 選
身を寄せて夜を眠りいん椋鳥の群をいだきて槻の木の黙もだ 《選者詠》
井戸端の対策会議は物価高よりも恐ろしき緊縛強盗 荘司 幹子
「たたき石」くぼみ温とし縄文人の狩猟生活の跡を撫でたり 田中 秀子
あおむけの身に乳房にゅうぼうと五臓六腑の存在感あり寝苦しき夜 羽毛田さえ子
NK国ロシアに派兵一万人いまだ金家の奴婢なる人々 木村 博子
ようやくに雪をかむりて衣替え富士の裾野はからくれないに 野口 貞子
■川柳「暁子の会」 米島暁子 選
オアシスを探し耕す一軒家 《選者吟》
微笑みは誰にも届くご挨拶 鈴木 綾子
ほうじ茶の香り大好きホッとする 山崎 君代
怖いけどいってみたいなおーいお茶 津田 健而
昼下がり椿山荘で飲む紅茶 福家 昭惠
高価でも似合うドレスを考える 関 玉枝
猛暑日へ冷えた玉露でリラックス 髙橋 和男
彩やかなカーテン若い夫婦かも 藤の木辰三郎
レモンティ君を見初めた春の頃 桶谷 康子
カーテンにかくれて遊ぶ孫の顔 中津 和子
■つれづれ句会 ― 投句 ―
冬しぐれ窓から魚うおの焼く煙
菜を刻む厨くりやに音の年初め 波
月を見た星を見た又月を見た
寂み来て道に梅なき日向ぼこ 甲
わだかまり解けて色濃し烏瓜 昌 恵
冬茜一瞬富士を浮き立たせ 住 子
遅々として時の進まぬ冬木立 裕 子
柚子のジャム煮詰むバラード聴きながら かほる
冬ざれのだれにも会わぬ散歩道 晴 美
冬夕焼明日は良き日と背を押され 幸 枝
枯野行くひとりの時間欲しいまま れい子
冬ぬくし畦青々とふかふかと 美智子
冬温し大利根川とねはひねもす急くるなし
貨物船カーゴ往くファンネルマーク花・加留多 鳴 砂
風邪薬求め煌々たるマツキヨへ
ドトールを出て足早の年の暮れ 旦 暮
夫婦してこごみ歩きや秋灯下 火 山
背を伸ばし一寸御洒落ちょっとおしゃれに冬日和 美 公
鰯雲仙石原に寝込ろびて 敬 直
箪笥隅母の手縫いの秋スーツ 光 子
家々にしずかに白く霜降おりぬ 彦いち
駅前にすらり一対石蕗の花 ちか子
軒下に音符奏でる吊し柿 一 憲
粧いをおとして静か山眠る 紀 行
紅葉して一村が赤ほとばしる 藍
草履投げ雨靴はいて七五三 荘 子
冬草を分けて松韻朝の風 義 明
友憶ふ無煙の荼毘所冬の空 恵美子
すいとんの湯気の向こうに母がいて夕餉のラジオは鐘の鳴る丘 風知草
消灯後眠り安らぎならぬらし看護婦さーんと呼びつづける男ひと
看護師に深夜カフェラテ頼む女ひとベットでつぶやくフザケンナと 一 蝉
見えぬ目で夢でも寒い雪景色 雅 夫(メキシコ)
朝日をみて感謝の日々妻を見る
夕日の影に我を見つめ息をはく 秋の山
冬空に星座確認常となり
独り居の手持ち無沙汰におやつ増え 卯 月
子らを呼ぶすすきなびいてブランコへ
朝焼けやイチゴミルクの雲描く しげみ
山茶花や露地の灯台ほの明かり
冬夕焼け富士に明星スカイツリー 佐藤 隆平
今年はね自分で自分褒める年
タチバナ氏選挙制度もぶっ壊し 沖 阿
■莢さやの会 ― 投稿 ―
小学生の詩に 湊川邦子
ある日 小学二年生の詩を 見つけた
「きょうは ねこのさぶちゃんと
なかよくなれるかな
へやにいた にげなかった
やったあ さわってみた できた
その日から ちかくにいてくれる
うれしいな」
「ぼくは けしごむ
ぼく いま大きい
ぼく ちいちゃくなる
ぼく いつか さよならする
ぼく がんばっている
ぼく ずっとがんばる」
読みかえす なんども なんども
今 わたしの心は かさなる
年老いても 持ち続けたい
すなおな やさしい気持ちを
私の紙かみさま 東 恵子
二〇二五年 七回目の巳年を迎えた
今 微調整の時
〈懐かしむ〉は 四とおり
疎開先のイチノセさん
「あんたの手 ぬくかったよ ありがとさん
こんなこまいのに いい話相手だった」
かけがえのない 二人の父
実家の父は
「先祖供養も大事かも知れんが 書くなり
描くなり 好きにしなさい 上へ行くか?」
美大へ進学させてくれた
嫁ぎ先の父は
「気立てのいいのが取りえだから仕方ない」
と かなり気さくで自由な生活を許した
F監督は
「五十年間 同じ男と暮らせ 何も書くな」
……だって
今ここに 大判のキャンパスノート四冊
大判の原稿用紙四冊ある はりきる私
半日 永田 遠
女学者の連れ合いは
門番 兼
庭師 兼
執事で
女学者のことを
ちょっぴり頼りないと思っている
女学者も連れ合いのことを
ちょっぴり頼りないと思っている
だから
お互いに自尊心は保ちつつ
尊敬もしているのである
今日もふたりは家の中
離れて静かに暮らしている