今年の夏は、とんでもなかった。
8月を過ぎても、雲に覆われた空が一向に落ち着かず、足元からはジリジリと
湿った熱気が立ち昇ってくる。
なんだかすっきりしない日々が続いていて、
一人住まいの高齢女性の私は、なんだか疲れてしまった……。
おかげで、かつて一緒に暮らしていた父が、晩年になにかとつぶやいていた言
葉が、しきりと思い出されてくる。
「おまえなあ、年をとるとなあ、もう息しているだけで、疲れるんだよ、もうめんどうくさくなるんだよ」と。
その度に私は、冗談交じりに言い返していた。
「ねえ、お父さん、お願いだから、めんどうくさいなんて言わないで、ちゃんと息だけはし続けてよね」と。
思い返せば、父と二人で暮らしていた日々が懐かしい。
私は二十歳で家を出て、三十八歳の時に子連れで家に戻った。
実家に戻ったのは、ほんの「ひと休み」のつもりだったけれど、
その間に母が脳梗塞で倒れるという、思いもかけなかったことが起きてしまったのだ。
それで、母の介護を父と二人でこなし、ついには母を看取ることになった。
そんなわけで、
老いた父と娘の私と幼い息子とが、お互いが身を寄せ合うようにして、
共に暮らすことになったのだった。
でも数年後、父も母を追うように逝ってしまった。
息子も自立し、好き勝手に暮らし始めた。
私は私で、「終の住処」を探すかのように、一人であちこちさまよい、
気が付くと、いつのまにか実家の空き家に舞い戻り、都会に暮らす高齢女性の一人になっている。
この状況を思うと、少々、複雑な心境になる。
自分が思い描いていた人生が、このような結末になるのか、と思えば、
どこか釈然としないものもある。
これでいいのか? という気もする。
とは言っても、もともと格別なことを思い描いて生きてきたわけではなく、
なんとなくここまで来ちゃったのだから、このままいけばいいだけかとも。
ともあれ、
人生の冒険からは完全リタイアして、もう穏やかに暮らしたい、
そう願っている今の自分に、やっとホッとしている私なのである。