■俳諧「奴凧」

岩角に郭公一羽那須の山        佐藤 春生

体力とおりあい付けて茄子植うる    吉沢緋砂子

桐咲くやワンマン電車の無人駅     鈴木 翠葉

花韮は地上に降りた星ならむ      勝  太郎

短夜にささやきかわす絹の雨      小林 今浬

燕の子明日に出で立つ気配あり     松山 我風

■短歌「合歓の会」           久々湊盈子 選

水は水の音たてながら奔りゆく青苗そよぐ水無月の田へ         《選者詠》

薫風に誘われ庭に下り立てばかきつばたの紫しゃくやくの白        天野 克子

富士の山すっきり着こなす羽二重にみどりの木々の裾模様かな       野口 貞子

五十年寡婦なりし姉を支え得ず逝きたるのちに心はうずく         羽毛田さえ子

どれほどのピエタがなきがら抱きしめて嘆かば終るか戦というもの     助川さかえ

元気なうちに会いましょうと亡き夫に同窓会の案内がくる         荘司 幹子

■川柳「暁子の会」               米島暁子 選

大声をあげて花丸靴を脱ぎ        《選者吟》

世の中を変えてみせると選挙前      木間 弘子

変えてみてプラス思考のプレゼント    鈴木 綾子

いつもなら買わない柄を買ってみる    寺澤 秀典

お正月父母のポッケをねらう子等     藤田 栄子

ポッケにはスマホにスイカ夢も入れ    板橋 芳子

ポケットに夢が溢れる青春譜       髙橋 和男

失恋か思わず変える髪の型        花嶋 純代

爪迄が土に染まった農に生き      藤ノ木辰三郎

あの指に止まって今や六十年       中津 和子

青春の胸の高まり孫に見る        桶谷 康子

年金でやっと食ってる老夫婦       関  玉枝

■つれづれ句会 ― 投句 ―

訪とぶらへば色濃き菖蒲より暮れて  

ポケットに俳句手帳や若葉風        三 島

 

夏来る…と呪文のごとく頭ずに句の何々と  

風鈴のひと言も無き悲しさよ         波

*今どきの風鈴は舌がカットされている

 

茜さす鈴生りトマトに序列あり

縄文の世にも爛漫の春あらむ        鳴 砂

 

風に乗りくちなしの香がサーフィンす

懐かしや墨絵ぼかしの梅雨昭和     佐藤 隆平

 

水不足メヒコで連日デモ騒ぎ        まさお

初当選メヒコで女性大統領       (メキシコ)

 

機種選び迷った末にリモコンの文字の太さが最後の決め手  風知草

 

田植え後あとアメーバ泳ぎさざ波や       悠 心

 

ハゼランの赤玉つぼみ陽を浴びて日暮の開花をひそやかに待つ

夕暮れて鉢植ハゼラン満開に風にゆらゆら桃色小花      一 蝉

 

 

紫陽花や初夏の香りよあざやかに      かもめ

 

横断幕となりぬお古の鯉幟

管理地にここぞとばかり夏の草       旦 暮

 

まん中にいつものサラダプチトマト

ひるがおの目覚め早くもすぐとじる      輝

 

新緑やカメラ向け合ふ少女達            火 山

薫風や不忍池に水輪かな              美 公

思い出や蛍の乱舞竹ぼうき           敬 直 

風薫る棚田一面夕日だく              荘 子

新緑に映える甍いらかや鴟尾しび高し        紀 行

江戸の粋伝え華やぐ花菖蒲           一 憲

里山に夏がくるらし竹そよぐ            義 明

母の日や香煙ゆらぎ母憶おもふ        恵美子

葵祭にて「路頭の儀」舎人も馬も武者震ひ   ちか子

 

跳ねて行く黄色の帽子ランドセル

花筏分けて浮いてる鴨つがい       しげみ

 

初夏の風弾むテニスの音と声

早や水無月すすまぬ処分空仰ぐ      卯 月

 

ゲリラ戦抜け道抜け穴交付金

知事選は二番ではダメ当り前       沖 阿     

■莢さやの会 ― 投稿 ―
エトランジェ     永田 遠

わたしたちの身体のすべては

両親から受け取ったものと

地球から摂取したもの。

 

–––では、あなたはどこから来たの?

 

身体がないときの記憶はない。

身体が生じたあと、あなたは生じた。

 

自分の身体のほかにあなたはいない、

たとえ地を掘り、海に潜り、空を駆けめぐっても。

–––でも、あなたは身体ではない。

 

わたしたちが闇に閉ざされた夜に

露のように降りてきてわたしの肩を抱く、

あなたはいったい誰なの?

 
惜 別         ユ ニ

頑なに畳まれた心の襞も

叔父の前には誰もが緩むばかり

叔父を見舞う高齢の教え子に

皆の笑みがこぼれる

 

叔父を育んだ

豊かな自然環境は

子供を魅了し続けたに相違ない

細やかな変化にも鋭敏であり

自然に注ぐ優しい目を人にも向けたにすぎない

のかも知れない

もう

旅立つ人を美しい惜別の花々に委ねて

光溢れる全き平安のなかへ感謝と共に

見送ろう

 
すずめ       湊川 邦子

ある朝

ベランダの片隅で すずめが動かない

どうしたのだろう

マンションの庭には

いろんな鳥がかわるがわるやってくる

中には尾長鳥むく鳥四十雀カラス………

 

どうしたのだろう

私はすずめを手の平で

しばらく温めてあげた

それから 口ばしに水を与えると

おいしそうに飲みはじめ………

すると 静かに目を開けた

小さなまるいかわいい目をしていた

「良かった」と思った瞬間………

アッと言う間に 羽ばたいて行ってしまった

すずめとの しばしのふれあいだったが

今も すずめのぬくもりが残っている

 
空腹         東 恵子

テニスコートの脇に こぢんまりした公園が あった

9さいの巡回少女は たいてい昼近くに現れ 

わが3さい児を 話相手に した

「かあさんのことを ママと言っては いけないよ すぐいい気になって おしゃれして どこかへ行ってしまうから」とか 「フローリング‌!?‌ 板の間はね 冬は年寄りには寒くてきらいだって」 とか

わが3さい児は「きらい」に強く反応して 笑った

「ひとり消え ふたり消え 今はチチと二人きり4LDK

あのさ おひる なあに?」(ん……ドリア)

ソース焼そばの日もあれば ナポリタンの日もあったのに

「メロンパン ないの?」(ん……しらない わからない)

「よばれようかな そのドリア」と手をつなぐ そんな日もあった 40年も前のことだ

人生で一番大切なことは人間関係だ 誰と密になるか

誰と別になるか この一線だけは把握していたい

巡回少女は和室の隅にあった ベビー用の飾りを引っぱって

壊した 逃げるように帰って行った 

他の家でも悪さをした と聞く

子供食堂があれば 9歳なりの支援を受けられたかも知れない