■俳諧「奴凧」
北八ツや苔の緑に夏木立 佐藤 春生
朝のれん美文字にひかれ入る寿しや 吉沢緋砂子
夏来る黒四ダムの大放水 鈴木 翠葉
宵待草開き始めの二つ三つ 勝 太郎
あざやかに大皿いっぱい夏料理 小林 今浬
りんどうも一輪加へ盆仕度 松山 我風
■夏日俳句会 望月百代 選
花びらに傷ある後の彼岸かな 《選者吟》
折り合へぬ猫と夫や青みかん 井川 美江
函入りの図鑑引き抜く残暑かな 井土絵理子
板チョコの割れ目斜めに秋涼し 岩下三香子
ポンポンと西瓜を叩く手のまるみ 岩本 純子
虫の音に包まれ住みて虫を見ず 太田 住子
茄子汁や長寿の秘訣特になし 北村 綾
意のままにいつも揺れたき風鈴は 河野 悦子
明け鴉啼いて終戦記念の日 佐藤 弘子
夏日押すもう一度シアトル氷川丸 佐藤 隆平
美容師のみちのく訛り秋立てり 鈴木 るる
夏果つや病みしこの身を持ちしまま 築 幸枝
星月夜エンジン音のひびきをり 恒任 愛子
遺品てふバカラのグラス冷酒注ぐ 都丸れい子
梅干してこれが最後と愛しめり 間部美智子
特別な風と思へり盆の月 丸澤 孝子
桃剥いて桃色の汁したたらす 渡辺 紀子
■短歌「合歓の会」 久々湊盈子 選
紅蜀葵こうしょつき身をそりて咲くかたわらを流山鉄道風たてて過ぐ 《選者詠》
力尽き骨のつきでた敗軍のビニール傘が街にころがる 助川さかえ
姑と男おの子三人みたりと暮らしつつわれの性根は坐りたるらし 羽毛田さえ子
陽のあたる場所歩みきし元総理自身も予期せぬ最期なりしか 田代 鈴江
ホワイトでさっと消せたら楽だろう娘より受けしあの日の痛罵 木村 博子
ほととぎすは地味な花なり満面にそばかす散らしはにかむ少女 野口 貞子
■川柳「暁子の会」 米島暁子 選
スクワット百回できて百になる 《選者吟》
母の背の丸みが語る九十年 野崎 成美
目覚めればあちこち痛む場所がある 木間 弘子
永かった明日地鎮祭マイホーム 花島 和則
年をとり夢でも恋にあこがれる 藤田 栄子
生きがいを毎日みつけ歌をよむ 花嶋 純代
夢を追いまだ追いかけて八十路過ぎ 寺澤 秀典
大トラのＤＮＡを継いだ孫 福家 昭惠
受験生頼りするのは虎の巻 谷畑 顕
虎だった夫は今は猫になり 鈴木 綾子
餅を搗く音にイベント盛り上がる 桶谷 康子
暮れ行事餅つく音が夢の中 松竹 妙子
■つれづれ句会 ― 投句 ―
行列の出来る寿司屋に金魚かな
店頭に蝶の来てゐる美容院 鳴 砂
明易し夢の逃げゆく窓明り
飛んでくる俺が天敵の夏の虫 甲
プチトマト鉢を引きずる孫来たり
甘酒や外回りの日の午後三時 かすみ
夏空に水芙蓉咲く友偲び かもめ
盆近し亡き父母思う墓掃除 悠 心
手賀蓮田つぼみ長ーく夕日映え
田守り人遠目のかかし見まちがい 輝
スイーツは心のお休み処です血糖値なんて忘れましょうね
ほんのりと甘い香りを含ませて涼風そよぐ無花果の小径 風知草
子供らに三年ぶりの泥鰌つかみ 火 山
祭り終え残る提灯風に揺れ 敬 直
夏祭り沢庵二切握り飯 美 公
すずし風更衣かえさえ忘れおり 義 明
道行けば蚯蚓みみずひからびいろはにほ 一 憲
コロナ禍で店無き祭り子等寂し 善 顔
夕食も祭り太鼓を待ちきれず 紀 行
昭和の灯匂ふ夜店のアセチレン かほる
長き世を生きて涼やか弥勒仏 光 子
夏草や世界遺産の万田坑（三池炭鉱跡） ちか子
快き御輿担ぎて髪解く 恵美子
さあ行くぞ暑さに挑む外出日
頑張りを自ら誉めてアイス買う 卯 月
故郷の友と話せば知らぬ間に我も語りぬ熊本弁を
小諸路の一人主の蕎麦屋にて三年振りと互いに語る 一 蝉
おずおずとピアノの調べ語りかけ夏の夕暮れ想いいざなう お太助
羽根に瑕疵子供の骸離れぬ親涙する人立ち止まる人 ユ ニ
思うこと以心電通採択で
戦後から平和の期間古稀になる 沖 阿
■詩人の会 ― 投稿 ―
初体験だった 東 恵子
「終わった 終わったよ 熱の原因つき止めた」
と執刀医の声
直走る ストレッチャー そのスピード その振動
わたくしの 32個の脊椎骨は知覚し 愉快がる
「あずき・さん おうちのかたですよ
お顔だけ 向けてください」
接見禁止のはずが 知った顔はうすぼんやり
睡魔の 真っ只中 雪原を 直走る 列車
甲高い警笛は 純白の平野を ずんずん 広げる
片隅で パルスオキシメーターを 人差し指につけた集団
無表情で 見送る
「終着駅は死の国」と 年老いた男の声 速度は加速する
わたくしは叫ぶ 助けてください 空中分解してしまう
集中治療室 窓際 動悸が 動悸が とつ散らかる
「私の考えは正しかった」確信にみちた執刀医の声が 響く
わたくしに向けられたメッセージ!? 慌てる
どうすれば良いのか どう言えば良いのか
類まれなこの幸運 この奇跡 今わたくしは 蘇生した
