2021年。
私は今や「原っぱ」のオーナー。
思えば、70も過ぎちゃってこういうことになるとは、まさかの展開だ。
終活世代と言われるお年頃になって、断捨離するどころか、
「原っぱ」にせっせと新しいガーデンハウスなんか建てている、
私はどうするつもりなんだろう、と思ったりもする。
けれど、きっと誰かがいずれ引き継いでくれるに違いない。
というのも、この「原っぱ」は、なかなかに好評なのだ。
同じサ高住の入居仲間が、お散歩の途中に「原っぱ」のベンチに座って、
仲良く休んでいたりするし、
自主運行しているミニバスの窓から、見る度に変わっていく「原っぱ」の様子が
とっても楽しい、とか言われるし。
「ガーデンハウスのペンキを黙々と塗っているあなたのけなげな姿に、
勇気づけられる。もう年だからできない、なんてこと考えなくていいんだな、
と私は思えるようになったのよ」なあんてこと言われたりもする。
私はデスクワークで煮詰まった頭の中をすっきりさせるために、ペンキ塗りを
楽しんで、自分が癒されているだけなのに、
「にしてけなげ」と言われる私って……と考えてしまう。
私が「原っぱプロジェクト」なるものを立ち上げて、
わが高齢者住宅の掲示板に「この指とまれ」のお誘い文を
貼り出してから8カ月。
思い返せば、ちょうどコロナウイルスの感染が始まった頃だった。
世間の混乱をよそに、せっせと原っぱにクローバーの種を蒔いたり、
ガーデナーたちとこの辺はひまわり、こちらはコスモス、
あっちはブルーベリーの菜園を作りましょうゾ、などと言って、
新しい体験にうきうきしていた。
原っぱは、好きなことをする場として誰にも開かれていて、
私は小さなギャラリーと劇人形を展示する趣味のパペットハウスを作っている。
大工のガクちゃんに設計を発注し、それが、目下、出来上がりつつある。
今年は、その投資資金を回収しなくちゃね、と売店を建て、トールペイントチ
ームの美術班でそこに自在に絵を描くことを計画。
目下、チームのテンションがぐんぐん上がっている。
楽しいから、あと5年は生き延びることにした、
なあんてメンバーが言っている。
そして一番大事なこと。野外劇場の客席もつくり始めることになっている。
70代、80代が「原っぱ」に来て、はしゃいでいるなんて姿、
ここでしかみられないかも、などと言って好き勝手をやっているのがいい。
思えば、それぞれがいろんな逆風を乗り越えて生きてきて、
今、やっと自分勝手に生きる権利を獲得した私たちだ。
ここが人生の晩年のいわばハイライトかも。