パソコンが壊れた。

かつて私はパソコンが壊れるとパニックになった。

そのパニックを経験したあげく、とうとうパソコンを常時二台使うことにしている。

で、今回は思った。

もう一台あるって、やっぱりなにものにも代えがたい安心だわ、と。

実は家で常時、仕事で使っている大きめのノートパソコンも数か月前に壊れ、

新たに購入したばかりだった。

この時は、大事なデータが消えてしまい、やっぱり大パニックになった。

そのデータをなんとか取りだしてもらうのに、

かなりなお金がかかり、新しいパソコンにもお金がかかり……

さらに今回は、お出かけ用のパソコンが……

ということで、パニックにならなかったけれど、すごくがっくりはきた。

そもそも、講演などの時に、資料をプロジェクターで映しながらでないと

私は、もう人前でうまく喋れない。

そのためにビジネスマンのプレゼン用のパワーポイントも習得した。

だから、このお出かけ用の小さなパソコンも今や私の必需品となっていたのだ。

それにこの「お出かけパソコン」があると、新幹線の中でも、旅の途中の山道でも原稿が書ける。

スマホがあれば、メール添付でどこにいてもほぼ送付も可能。

遊びながら、お出かけしながら、どこでもお仕事だなんて、なんと夢のようだわ、と思っていた。

思えば、私の仕事の必需品はパソコンとメガネ。

これがあってこそ、暮らしていけている。

けれど、パソコンはしょっちゅう壊れるし、メガネはなぜか年中なくなり続ける。

この二つのものにかかる経費があまりに大きすぎる。

それゆえに、働けども働けどもお金が手のうちからこぼれていく消耗感に

私は常にさいなまれてしまうのだ。

そんなことを思いつつも、しかたないので、

わざわざ行きなれた東京の池袋まで新しい「お出かけパソコン」を買いに行った。

パソコンを買うときは、なぜかいつもドキドキしてしどろもどろになってしまう私は、

初めてのところに行く勇気が出ないのだ。

そうであるのに、ビックカメラの人ときたら、

案の定、私があまりにパソコンの操作がへたなゆえに、

いや、年齢が高いがゆえに、尋常じゃなく心配をして、

お金のかかる設定サービスを熱心に勧めてきた。

たぶん、わたし、できる、と思いながらも、

いつものことながら、勧められるのを断り切れない。

私は「ああ、またお金がかかっちゃったあ」と悔やみつつ、那須まで帰ってきた。

そして、数日後のこと。

びしっとしたスーツ姿のパソコン設定サービスの男性がやってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

IT関係は好況なのだろうか。

彼は高級車で福島県のいわき市から延々車で、サービス付き高齢者住宅の私のハウスまでやってきた。

仕事できそう! と口をあんぐりしていたら、

「昨日は千葉方面に行きました」ですって。

どうも過疎地御用達の方のようだった。

彼は、パソコンを立ち上げ、ネットにつなぎ、ウィルスバスターもいれ、

印刷機ともつなぎ、なにもかもしてくれて帰っていった。

高齢女性が、こんなところでパソコン二台も持って、なにやってんだろう、

そう思ったに違いないが、やたらと礼儀正しく、

「何かご質問があれば何でも」と言ってくれたので、

私は、お金のかかったことは忘れることにしたのだった。