この頃、毎日のように車を運転している。

二年前に「もう、そろそろ運転は…」と思って車を売ってしまったというのに。

那須の「サ高住」に入居し、これからは風に吹かれ、大地に抱かれ、

質素に地味に暮らそうと思っていたのに。

息子に「お母さん、好きに生きてもいいけど、借金だけはしないでね」

とか言われたような記憶があるけれど、

車のローンは借金のような、そうじゃないような……。

ともあれ、那須では車がないと不都合なことばかりなのだ。

歩いていけるところに、コンビニなし、自動販売機なし、バスの停留所なし、

ましてスーパーがあるわけもない。

地方で暮らす、というのはこういうことなのね、と深く実感。

三十年前の国鉄の民営化のツケが、今、こんなふうに地方を苦しめているのね、という感じだ。

私の住む場所は、76名のシニアたちが暮らしているところ。

集団の強みで、むろん対策は講じている。毎日、4便ほどのハウスバスを運行している。

病院やクリニックに通う人、買い物に行く人、郵便局や銀行に行く人……が利用している。

運転しているのも入居者、乗っているのも入居者。

「あら、どちらへ?」

「花の種を買いに」

「私は、内緒」

「知ってるわよ、郵便局でしょう」など。

バスの中は、いろいろな情報も飛び交い、楽しい。

ところが、この何時発の何便に乗って、どこで、何時に何便に乗って帰ってくるか、

というのがとんでもなく難しい。

この私には。

なんで、こんなややこしいことを、みんなやりこなしているのか! と驚くけれど、

「馴れればどおってことないわよ。頭の体操よ」なんてのたまう。

でも、早朝に温泉に行く、とか。

コースの外れたところにあるすごい美味しいパン屋さんに行く、とか。

年中やってくる私の友人たちを迎えに行くとかは、できない。

とくに、私の友人たちは、新幹線は富裕層の乗るもの、と主張し、

多くが、深夜バスや在来線を乗り継いでやってくる。

「早朝4時に到着、迎へ乞う」とか「黒磯○○時着」とか

「沿線の無人駅に到着してみます」とか……。

おまけに人形劇団なぞを始めてしまったので、

荷物の搬入や搬出など、物を運ぶことが年中、必要になる。

 

 

 

 

 

 

 

 

さらに、那須で知り合う別荘族に

「あらあ、ご近所ねえ、遊びにいらっしゃいよう」などと誘われて、

場所を聞けば「車で30分くらい、すぐよ」なんていう。

これだけの理由があったら、車を購入するしかない。

というわけで、軽のエイブリという一番安い商用車、郵便局や宅急便のあの車を購入し、

日々現役で「働く人」の気分で運転している。

時々「乗せて」と頼まれるが、

その度に「私に命を預ける覚悟はある?」と訊くことにしている。

先日、乗せた彼女がにっこり笑って言った。

「うん、大丈夫、もうお墓あるし」だって。

地方では、高齢者に車を手放せって言っても、いうことをきく人はいない事情があるのである。