那須のサ高住(サービス付き高齢者向け住宅)に、引っ越してきてはや1カ月。

スタッフの人が、「新入居者の歓迎会をやりますよ~」と言ってきた。

聞けば新入居者が2人。会費500円。午後のお茶会らしい。

私は歓迎される側のひとりなので、ご招待とか……。

そう、ここは隣の人の顔も知らないし、話したこともない、

それでなんら支障がないというような都会とは違うのだ。

戸建てのコッテージふうの木の家が、中庭を囲むように建っていて、

それが4ユニット。合わせて70戸のコミュニテイ。

一人ひとりが独立して暮らしながらも、共同のルールを作り、

協力し合って暮らす場、とでも言うのか。

みんなが、全体を「ハウス」と呼んでいるから、

どこかで一つの大きな家よねえ、という共通意識で暮らしているのだと思う。

そのような中で、どうふるまうべきか、どうまわりと付き合っていくべきなのか、

正直いって、全然、分からない私だ。

そんな私なのだが、「誰かにご飯を作ってもらう毎日」にすっかり魅了され、

ほぼ毎日、食堂でご飯を食べていて、そこで顔を合わせている方々からは、

「あなたはなじむのが早いわ、そういう人って珍しいのよ」などと言われてはいる。

けれど、当人としてはまだなじんでいる気は全然しない。

人からよく「ひょうひょうとしてマイペース」と称される性格らしいので、

一見、そう見えるのかもしれない。

が、自分としては、やることなすことが戸惑いと失敗の連続で、

歳を重ねてからの環境変化はなかなか厳しいと思い知った。

なにしろ、右に行こうとして左に行っちゃうとか、

ゆっくりと道を歩けず、つい小走りになるとか。

「大丈夫、大丈夫、走らないでいいのよ」なんて言われて

「そうか、私は、今、走っていたのか」と気が付いたりするありさまだ。

そうかと思うと、あまりの空の大きさと流れる雲の美しさに呆然として、

その場に立ち尽くして空を延々眺めていたりして、

「どうかされました?」と尋ねられたりもする。

たぶん、「ちょっと変わった方かも」という印象を与えていると思う。

これまでも、いつでもどこでも、そうだったので。

でも、まだ1カ月。ほとんどの方の顔も名前も覚えられない。

そもそもここのハウスの戸数は70もあって、

それぞれの家には立派なキッチンがあるから多くの方は、自炊派。

私のような食堂派は少ない。

よくよく考えれば、まだ会ったことのない住人がたくさんいる、と思う。

とりわけ、スタッフの人が言った

「自己紹介をしていただくので、よろしくね」の言葉が気にかかる。

 

 

 

 

 

 

 

私は、一応、ノンフィクションの物書きで、ひたすら取材をしまくって生きてきた。

だから、セレブの方であれ、高名な方であれ、ヤクザ系の方であれ、

たじろぐことはない。また、テーマのある講演とか、講座の講師とかは

「これは仕事だ!」と思うのでなんとかこなせる。

ところが、ご近所とかPTAとか地域の自治会とかになると、

どうしていいものか、なにをどう話せばいいものか、皆目わからなくなり、

しどろもどろになって、びっくりされてしまう。

というわけで、この「新入居者歓迎会」をクリアできるか、それが問題だ。

これさえクリアできれば、もうなにも怖いことがなくなるのだけれど。

さてどうなるか、自分で自分のことが心配でならない……。