各方面に友人がいる。

住むところも、職業も、年齢もまちまち。実に多様な友人が……。

おかげで「あなたって友だちが多いよねえ、

いろんな人を知っているよねえ」とよく言われる。

でも、そういうことになったのには、わけがある。

なにを隠そう、十数年ほど前に「アリスのお茶会」という、

とんでもなくおかしなお茶会を開いていたせいなのだ。

実は、母が64歳で倒れたのが、私が39歳の時。

それ以来、父の介護も含めて20年、私はなんだか

家に鋲で留められちゃっているみたいな日々を過ごしてきた。

それを「お出かけ不自由時代」と私は呼んでいるのだけれど、

その間に気が付けば「そして、誰もいなくなった……」状態、

つまり友だちが誰もいない事態になっていたのだ。

ある時のこと。

家の窓からお隣の大きな木を眺めていたら、不意に

「木はどこにも行けないけれど、なんて自由そうなんだ!」と思ったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そう、どこにもいかない木は、そこにいたままで枝を延ばし、葉を繁らせ、

花を咲かせたりする。そこへ、鳥が飛んできてちょっと休んだり、

いろんな人が木陰で憩ったりするなあ、と。

そんなわけで、私は「ここからどこかへ行く自由」ではなく、

「ここに居てもなおかつ自由」、それを目指して暮らせばいいんだ、

と気が付いたのだ。思えば、歳をとればベッドに横たわったまま

どこへも行けなくなる時が来る。

「ここに居て、なおかつ自由」、その心境を会得するのは、

将来のために大事よねえ、修行をしておかなくちゃ、そう思ったのだった。

それで、ホームページを立ち上げて「意味なし、意義なし、目標なし、

そんなへんてこりんなアリスのお茶会に、ぜひおいでください」

というテーマで、参加者を募った。

イメージは「不思議の国のアリス」のマッドパーティ。

意味も意義も目標もない、初対面同士の相互理解不能なお喋り、

二度と会わなくてもかまわない関係、でも、ちょっと面白かったかもね、

そんな気がするお茶会。用意をするのは「美味しいケーキとお茶」。

場所は、私の自宅。女性限定で、申し込み順、定員12名。

私だったら、こんなお誘いには乗らないわねえ。

でも、介護で疲れて、ちょっと誰かとおしゃべりしたい、

そんな方の息抜きにはなるかもしれないし、と思ってやってみたところが、

なかなかの人気になって、開催する度にすぐ満席になってしまったのだ。

このお茶会を続けていたら、いつしか常連ができて、仲間になって……

という次第で、友だちが増えていった。

最近は、秘書さん役がいなくなり(人を雇えるほどもう稼げない)、

私がお一人さまになり、お出掛け自由になって、

お茶会は開かなくなってしまった。

先日、常連だった友だちから電話で、

「ねえ、アリスのお茶会やってよ~」と言われた。

栃木に住む造り酒屋の女将さん。毎年、送ってくれる大根の粕漬が、

あまりに美味しくて、遊びに来た人のお茶うけに出すと、皆が言うのである。

「ちょっと、白いご飯、ないの?」

そんなこんなで、今は、友だちだらけになったのである。

ちなみに「ここに居て、なおかつ自由」その修行だけは、今も私は続行中だ。