年末年始が近づくと、今年はなにをするかなあ、と考える。
毎年、近くに住む息子家族が、年末年始を遠くの妻の実家で過ごすので、私は、一人。
どんなふうに過ごしても自由なのだ。
とはいえ、彼らがいてもいなくても、私は毎日好き勝手に暮らしてはいるのだけれど、
なぜか年末年始だけは「一人」感が際立つ。
「お正月は家族が一緒」、この日本人の中に刷り込まれた価値観には、
なかなかに手ごわいものがある。
最初の頃は、私も「お一人様」であっても、
お正月はお正月らしく……、というこだわりがあった。
老父と二人で暮らしていた頃は、大掃除もし、年越しそばも用意し、おせちも作り、
新年のお花を飾るなど、それなりのことをしていた。
お正月くらいは頑張らないとまずい、という父への配慮があったのだ。
それが、父が亡くなってからは、一年ごとになにかが省略されていった。
そして、ついに数年前からは「お正月」をパス。
元旦にお雑煮さえ食べなかったりしてしまうような私になっていた。
それって、どうなんでしょう、とは思うが、これまで大変だった私なのだから、
しばらくはいいわね、と理由をつけてサボっている。
以来、年末年始がとても楽しみになった、
なにもしないで無為を決め込んで過ごす年もある。一人でふらふらいろんな神社へ
初詣に回ったりした年もある。映画館で映画三昧で過ごしたことも。
四年前の大晦日の夜は、
「レ・ミゼラブル」をガラガラの映画館で見て、感動の涙を遠慮なく流したりした。
そんな中、忘れられないのが、二年前の年末年始。
「今年は旅に出ましょう」と思った私は、あれこれとインターネットで調べていて、
年末年始七日間の「お一人様限定ツアー」なるものを見つけた。
ちょっと高い、とは思ったが、ただの「お一人様」ではなく、「お一人様限定」と潔い。
全員、一人一室、というのも気に入って参加した。
沖縄の南の島で、なんにもしないで過ごすこのツアー。
青い美しい海とお散歩と読書、一人の時間を満喫しましょうと
キャリーバッグにたくさん本を詰めて私は出掛けて行った。
見廻せば、参加者は圧倒的に60代から70代くらいの熟年、高年の女性たち。
その中に、男性がちらほら、若い女性がちらほら。
要するに、大半が私のような女性ばかりだった、ということ。
ところが、そのツアーには、夕食が付いていなかった。
おかげで、初日から「一緒にご飯食べません?」と誘われた。
もともと、私は見知らぬ人に声を掛けられやすいタイプ。
どこか人懐こく思われがちなのだ。
「あらら…」とは思ったが、すぐに、「ま、いいか」となり、
ついつい島の飲み屋街へと出掛けて行った。
おかげで、初日から知らない者同士で、飲んだり、食べたり、喋ったり。
これを毎晩重ね、すっかり親しくなってしまった。
思えば、年末年始に一週間も家を空けて、なんの不都合もないという同世代の女性たちは、
みな、「わけあり」である。
夫を亡くしたばかりで、パア~っと気持ちを切り替えたいの、と言う人、
気合で熟年離婚をしちゃったものの、なんだかねえ……、みたいな方、
ひとり暮らしのエキスパートで、
「私は、ずっと一人よ、家族なんていてもいなくても」と言う方などなど……。
わけあり女性の経歴は、なかなかにドラマチックで、
一緒に飲んでいて退屈するということがないのだった。
そんなわけで、それからは、一緒に島めぐりにも出掛け、素焼きシーサー作りもやり、
これ似合うわよと言われて、ついつい藍染の絞りの服まで買い、
みんなで海から昇ってくる初日の出を拝み、樽酒をふるまわれ、
元旦からやたらににぎやかに過ごすこととなった。
東京に戻ってからは、食事会もやって、
なんだか分からないが、友達を増やした年末年始となった。
さて、今年は、どうするかなあ、
ふらりと温泉の旅にでも出ようか、ただ近所をうろうろして過ごすか、
それとも……、と決めかねている。
ひさだめぐみ★プロフィール
1947年北海道生まれ。上智大学文学部中退後、ノンフィクションライターとして活躍。『サーカス村裏通り』で作家デビュー。『フィリッピーナを愛した男たち』で第21回大宅壮一ノンフィクション賞受賞。『息子の心、親知らず』で平成9年度文藝春秋読者賞受賞。『母親が仕事をもつ時』『トレパンをはいたパスカルたち』『今が人生でいちばんいいどき!』など著書多数。
個人事務所のサイト花げし舎