塩蔵ウニ、干物のアワビ、甲イカのスルメ、
鯨、五島うどん…捕鯨船での「かたふり」
やまむら かずお★プロフィール■1947年7月
神奈川県相模原市生ま
れ。1971年東京水産大
学(現•東京海洋大学)
専攻科卒業。日本水産
株式会社入社。1976年
日本共同捕鯨株式会社
移籍。1988年財団法人
日本鯨類研究所移籍。
1998年日本鯨類研究所
理事就任。2004年共同
船舶株式会社代表取締
役就任。2009年日本捕
鯨協会会長代理就任。
2012年共同船舶株式会
社相談役就任。2013年
日本捕鯨協会会長就任。
1971年に東京水産大学(現・東京海洋大学)を出て、
日本水産に就職。配属されたのが捕鯨部でした。
すでに「捕鯨は斜陽産業」と言われながら、
国際捕鯨委員会の漁獲量割当制になんとか耐えていた時代。
入社して6年間、捕鯨船団の司令室スタッフとして毎年南氷洋に出かけました。
1年の半分は男だけの洋上生活。
慣れるには、それなりの覚悟が必要でしたけどね(笑)。
今日お話ししようと思ったのは、船での「かたふり」のこと。
船独特の言葉ですが、要するにお酒や食べ物を持って集まって
一緒に呑もうということです。
船の上では2組に分かれ、8時間のローテーションで24時間仕事をしています。
でも、嵐がくると鯨が捕れないから、作業員の人たちは仕事ができない。
そんなとき「かたふろう」と言って、みんなで作業員食堂に集まるんですね。
私も、勤務がないときはよく仲間に入れてもらいました。
捕鯨船には、江戸時代から捕鯨をやってる地域の人が多いんです。
太地町や高知、長門市周辺の人、宮城は明治の始めからですが牡鹿半島の人、
長崎の五島列島の人も多かった。
こうした人たちが塩蔵のウニとか干物のアワビ゙、甲イカのスルメとか、
自分たちが船に持ち込んだものを持って集まるわけです。
鯨も食べましたよ。製品にならない部位を冷蔵庫から出してきて。
歯茎とか胸ビレの皮は刺身、腎臓はボイル、膵臓は焼いて、
肝臓は生でも焼いても美味しい。
そういうのを肴に酒を呑んで、ちょっとお腹がすいてきたなあって頃、
傍らでうどんを茹で始める。
かたふりの一番の楽しみが、この五島うどんでした。
椿油が練り込んであって、非常に舌触りがいいんです。
で、そろそろ茹だったかなって時、うどんを箸でつまんで壁にパシッとぶつける。
そのままスッと落っこちたら、まだ足りない。
壁にピタッとくっつけば茹で上がり。
それを、焼いたトビウオの出汁で食べるんです。
具は何もなくて、ホントの素うどん。だけど美味しかったなあ。
かたふりで話してたこと?
司令室勤務の私は、これからどう移動して、忙しくなるよとか、
大したことじゃないけどなかなか下まで伝わらないことを話してた。
みんなも、仕事の話とか、町の自慢話とか、子供の自慢話とか…。
エロ話はしなかったな。刺激の強い話は意識的に避けてた(笑)。
その後、日本共同捕鯨に移籍し、
第1回国際鯨類資源調査でIWC(国際捕鯨委員会)から派遣された調査員として1回、
日本鯨類研究所に移って調査団長として1回、
船に乗りました。
結局、学校を出て43年間、ずっと捕鯨の世界にいる。
あれだけ将来性がないと言われてきたけど、なかなか潰れなかったなあ…(笑)。
先日、国際司法裁判所で調査捕鯨禁止の判決が出ました。
捕鯨は賛否両論あるけど、今世紀半ばに人類は90億人に達すると言われています。
そうなると、地球規模の食料不足がいつ発生してもおかしくない状況になる。
対策の一つとして、
食べられるものの幅を広げておくのは大切なことだと思うんですよ。
日本人に鯨を食べる文化があれば、少なくともその分、
鯨を食べない民族に牛や豚を回すことができますからね。
それに調査捕鯨の結果、鯨が増えてることは分かっているんです。
鯨が食べる魚の量は、人間の3~5倍と言われてる。
人間がいま漁労で捕ってるのは、養殖を除いて9千万トンぐらいだから、
つまり鯨は3億~5億トンの魚を食べてる計算になる。
捕鯨については感情論だけでなく、
こうした調査結果を踏まえて考えていく必要があると思っています。
(インタビュー:2014年4月30日)