■俳諧「奴凧」
代搔くや虫も掻きだし鳥の群れ 佐藤 春生
紫陽花や雨ひとしおに風情あり 吉沢緋砂子
園児らと踊る紫陽花色が増え 川上 壮介
えびがにを追う子等の声行々子 勝 太郎
軒先で雨だれ数える夏の夕 小林 今浬
花菖蒲音なく渡る風ゆたか 松山 我風
■短歌「合歓の会」 久々湊盈子 選
タトゥありへそピアスありむきだしの若さが乗り来る湘南電車 《選者詠》
非正規のすきま時間のデリバリー黒のカバンに今だけ詰めて 中川 尚美
弘前のりんご園から待ちかねし便りが届く「花が咲きました」 松田 冨栄
ひと冬の汚れの目立つ炬燵布団わが心身を温めくれて 大月 舒子
肝腎なときに言葉を出せざりし父の性癖われは受け継ぐ 根本 晴市
敵方のアルゴリズムを崩すため異分野の単語やたら打ち込む 清水 展生
■川柳「暁子の会」 米島暁子 選
AIの知恵に勝てない米を研ぐ 《選者吟》
感動をギュッと圧縮五七五 寺澤 秀典
小説に女心を教えられ 鈴木 綾子
一歩引くかかあ天下の心地良さ 木間 弘子
熟してる今が一番いい女 中山 秋安
死ぬことも忘れたほどの物忘れ 血矢 行男
ピエロにもなれる男の処世術 髙橋 和男
遠くから下校児童のはしゃぐ声 花島 和則
あら元気たくさん出会いまず学ぶ 花嶋 純代
流れ星夜空を仰ぐ秘湯の地 板橋 芳子
■つれづれ句会 ― 投句 ―
香水のふと漂へり自動ドア
茶の花や少女の胸のふくらみて 甲
人気無き葉桜の道葉擦れ音
遅い朝熱いコーヒー薫風添え 佐藤隆平
始まりは今年も雨の七変化
農園は地肌となりて五月雨 旦 暮
山車だしを引く子らの手と声力入いる
薔薇マキを私もほしい物価高 しげみ
電線にからむひるがお朝ぼらけ
十薬や地をえらばずにここかしこ 輝
メヒコまで届けてほしい梅雨空を
ヒーターを出したり入れたり変な夏 雅 夫(メキシコ)
*先週は気温6度、今週は30度になりました
備蓄米抱いて家路を急ぐ人妻にみやげと破顔一笑
飢え凌ぐ一皿を乞うガザの子は細き腕にいのちを託す 風知草
泰山木白き王冠香を放つ 住 子
ビニールハウス窓全開や夏来たる 裕 子
独り居の自由でもあり梅雨始む 節 子
花樗訪はねば逢へぬはらからよ かほる
しつけ糸そのまま母の白上布 幸 枝
聖五月あぢさゐ寺のひそやかに 晴 美
そよ風てふ介護車過ぐる立葵 れい子
余命想ひ枝葉断ち切る梅雨まぢか 美智子
夕暮れに咲くハゼランの桃小花もうそろそろと風がささやく
ベランダにゴーヤ二株植え終わりチビカマキリの来訪を待つ 一 蝉
こころ楽しクロールひとかき宇宙遊泳 きなこ
ヒナすだち巣箱さびしきシジュウカラ
ふけてなおヨシキリなくよなにをする お太助
米でなく麦食えばいい、言ってたよね(池田勇人)
ドヤ顏でドヤドヤ立つは選挙戦 沖 阿
夏近し家なき子らの手首傷 火 山
大風に大河飲み込むこいのぼり 美 公
肩に竿麦わら帽子の親子連れ 敬 直
夏近し猫も毛替えてスレンダー 紀 行
穀雨とは天の恵みと人の汗 一 憲
緋毛氈かけたるが如つつじ咲く 藍
田の畦の菜摘み懐かし夏近し 彦いち
杖ついてつつじの山へ風やさし 光 子
慣れぬ草取りつる果ての湿布薬 ちか子
北総の青田を分かつ成田線 かおる
菖蒲湯や風呂場にぎやか邪気払う 荘 子
つよき風梅の小つぶを打ちており 義 明
老いらくの心ときめく初蛍 恵美子
■莢さやの会 ― 投稿 ―
思わぬ企み? 永田 遠
アラーキー 写狂人 荒木経惟
その展覧会に行ったことがある
会場に入るなり、 えッ?
等身大の人妻ヌードがずらり
ちょっとキレイなおネエさんも
かなり太めのオバサンも
諸々モロダシ ぜーんぶハダカ
鑑賞者はみな押し黙り
唾のむ音まで聞こえそう……
その中で
二歳ぐらいの坊やが
バギーから飛び降りるなり
「ママー」
と作品に駆け寄った
とっさに捕まえようと父親
でも、今度は別の方向に
「ママー」
制止ふり切り走り寄る
この子には
裸の女はみんなママ?
(三つ子の魂は百までだけど……)
問 診 東 恵子
ご主人の出身地はどちらですか
ご兄弟は何人ぐらいでしょう
このお住まいはどういうご縁で決めたのですか
介護センターNのケアマネさんの質問は
事務的ではなく 感じの良い 雑談風だった
患者と同じ年の妻 84歳はどの程度の介助が
できるのか
3か月 3年 5年 ガンサイボーは いつ
暴れだすのか 誰にもわからない
とりあえず放射線治療は施されている
南の明るい和室に 貸与されたベッド
トイレには立ちすわりが楽な補助セット
車椅子だってスタンバイしている
いただいた切り花 ホタルブクロは細い茎に
すべて咲き誇っている 白も紫も行儀よく
「この住まいはどういうご縁で決めたのですか」
……懐かしい 幼き日々も 44年前のことも
私たちはまだ 記憶の最中さなかなのだけれども
姫桧扇水仙 湊川 邦子
姫桧扇水仙
子供の頃は
盆花ぼんばなと呼んでいた
オレンジ色で
お盆を知らせてくれる花
今 庭で蕾をつけている
お盆には 先祖の霊を家に迎えて
供養するならわし
ふと 昔を思い出す
お坊さんを迎えて 親戚の人達も集まった
子供心に おごそかな気持ちになった
懐かしい人達……
とうに 故人になった両親と先祖の霊に
ヒメヒオウギ スイセンを
供えて
お盆を迎えたい