■俳諧「奴凧」
ひつじ田も垂れ穂波打ち黄金色 佐藤 春生
おもたせの栗の和菓子に濃い目の茶 吉沢緋砂子
小春日に干した長袖踊る空 川上 壮介
今少し生きながらへん秋の風 勝 太郎
凍いて道みちに点滅さびし蛍光灯 小林 今浬
何やかやありてともかく冬支度 松山 我風
■短歌「合歓の会」 久々湊盈子 選
かつて鳥でありしなきがら草むらに鳩のかたちの物体となる 《選者詠》
N響に「田園」を聴き最高の贅沢としてしばしまどろむ 田中 幹雄
戦後八十年「火垂るの墓」を読みながら繰り返し問う戦争の意味 天野 克子
ひさびさの外の空気に言の葉がほつりほつりと脳なずきに降り来る 荘司 幹子
渡るよう目配せくれしドライバーに目礼をして車道横切る 羽毛田さえ子
バス停に見知らぬ人と十月の暑さ嘆くも他生の縁か 助川さなえ
■川柳「暁子の会」 米島暁子 選
大空をキャンバスにするクレヨン画 《選者吟》
やっと秋コスモス咲かせ恋も咲く 吉田 貞惠
黒揚羽庭の主役となる気品 桶谷 康子
夜の銀座華麗な蝶が乱舞する 髙橋 和男
また会おう望みをつなぐ老いの糸 鈴木 綾子
身にしみる喧嘩別れの友訃報 津田 健而
八十年多くの友と別れけり 谷畑 顕
風にゆれどこまで行くの綿毛さん 山崎 君代
八月の歌舞伎座を観て夏終わる 福家 昭恵

■つれづれ句会 ― 投句 ―
人の世の別れの重し実南天 住 子
初冬や頭傾げる菩薩様 裕 子
ほの赤きスーパームーン神の留守 節 子
主婦いつまで手提げはみ出す葱の束 かほる
黒雲に追はれつ沈む冬夕焼 幸 枝
名を呼べばかけ来る犬の息白し 晴 美
野菊咲く畔にひろげし塩むすび れい子
病みもせぬ我が身に勤労感謝の日 美智子
駅ビルを出て秋晴れの北千住
小鳥らよ互いに名乗るほどでなし 旦 暮
朝露やかすかな音すけやき路
つまづきてどんぐり拾う八十路坂 輝
ワルシャワを黄金色に染め上げて熱気漲るショパンコンクール
軒先に柿の実一つぽつねんと昨日も今日もぽつねんと 風知草
泡のないソーダ色の空の下もと秋の便りのイワシ雲行く
診察を待つ列の中ガンからの生還語る白髪の男ひと 一 蝉
小窓より中秋の月見て臥しぬ 火 山
今朝摘みし竹筒切りて野菊挿す 美 公
鶏頭の色鮮やかに天を指す 敬 直
古本に思いかさねる秋夜長 光 子
長寿乞い五色に挿すや菊節句 紀 行
たずね人出したき人あり秋夜長 荘 子
煩わずらいも腑に落ちてゆく夜長かな 彦いち
提出句捨てて拾ふて夜長かな かおる
垣根越え隣家の小菊そっと咲き ちか子
金木犀香りに惹ひかれたどる道 義 明
悔のなき人生ありの今日の月 恵美子
誕生日カードサプリ会社がくれるだけ
遺産分け皆と同じで欲が出る す ず
栗ごはん苦労の末の味のよさ
耐えきれずストーブ2つ持ち出して はるえ(長野県)
天高く株価も高く物価高
メヒコ銃弾日本は熊に要注意 雅 夫(メキシコ)
冬物を出して安心渋茶飲む
ドングリ拾い残して置きなと言った祖母 佐藤 隆平
孫娘楽しみ喜び夢くれるついでに心配まで付けて
花がない猛暑に負けたマイガーデン しげみ
年の暮れ老い老いやるよ始末など
国会にオポチュニストが跋扈する 沖 阿
*オポチュニスト:日和見主義者
■莢さやの会 - 投稿 -
夜の散歩 永田 遠
ん、もう、居眠りばかりして
あんた、死ぬ気?
こんど椅子から転げたら
助けてやらないんだから、と
天使に言われました
高い、たかーい煙突に
わたし、腰かけて
下界を見おろし
ああ、人間がゴミのようだ、などと
呟いていたのです
月が出て、夜空に星のきらめく頃
銭湯は裸の男女で大賑わい
微笑みの湯気に満たされます
煙突からは、真っ黒な煙
その煙の中に
何かがポトリと落っこちます
今宵は
いい月夜ですね
リーチ 東 恵子
リーチ オールド エイジ
老齢に達する
リーチ フォア ザ スカイ
大志をいだけ
戸主は今 ガンサイボー保持者
猶予の最中にある
本業は理系の仕事だった 73歳まで働いた
退職してから趣味は文系になった 歌を詠む人
そこそこの名誉を頂いて10年たつ 歌集二冊
まだ未発表の歌は資料の中で 眠っている
ベランダからは 富士山が見える
西に 青い山並みが気をひく
リーチ
時間をかけて努力の末に目的地に到着する
リーチ フォア ザ スカイ
老齢に達しても 大志をいだけ
猶予期間は3年かも知れないし5年かも知れない
眠っているものはガンサイボー以外
起こせ 起こすのだ
免許証返納 湊川 邦子
ニュースで 高齢者の交通事故を見る度に
他人事ではないと…… ハラハラしていた
夫が この秋に免許証を返納した
忘れられない 車の思い出がある
数年前 二人で東名高速を走行中……
突然 タイヤがパンクした
とっさに路肩に出て何とか脇道に移動した
すると 通りすがりの人がわざわざ車から
降りてきて タイヤ交換を手伝ってくれた
〝地獄に仏〟とは このようなありがたい事な
のかと思った
『名前を教えて下さい』と頼むと
『お互いさまですから』と、一言残して
去って行かれた
映画の中の 高倉健の様に見えた
運転歴60年 ほとんど無事故のまま
返納できて ホッとしている
