なんだか最近、原稿をテキパキと書けなくなった。
書けないのか、あるいは書きたくないのか……
その辺の境目が、自分でもはっきりしないのだけど、
いずれにしても、文章を書くのが辛い。
もうずいぶん長く、書くことを仕事にしてきたけれど、
こんなに辛いと感じたことはなかったように思う。
そういえば、リタイアしてからも、
鉄鋼関係の専門誌の依頼で原稿を書いていた父が、
ある日いきなり、私に言ったのだった。
「おまえ、書け。書くのが仕事だろ?」
その日から、父が話すことを、私が原稿にする共同作業が続いた。
専門誌の原稿は論文のようで、とくに言葉を練る必要もなく、
構成さえきちんとすればOKだったので、さほど苦もなく手伝っていた。
でも考えてみれば、当時、父は80歳ぐらい。
あたり前のように、私に書けと言ったけど、
書けないのか、書きたくないのか……父も逡巡したのかもしれない。
当時はそこまで思い至らなかったけど、ただ漠然と、
歳をとると原稿が書けなくなるという事実を、
小さな不安とともに心の奥にしまった気がする。
そうなのだ……
私も78歳となり、書くのがしんどくなってきたのは、自然なことなのだ。
そこで私は、抱えていた仕事を減らすことにした。
辞めます、と言ってもなかなか辞めさせてもらえなかったり、
やり方の変更を提案されたり……お互いに行きつ戻りつしながら、
それでもすこしずつ仕事の量を減らしてきた。
身の回りの出来事をなんでも自由に書いてと言われて引き受けた月刊新松戸の連載も、
ここで一旦、終わりにしようと思う。
この連載を始めるとき、「想定外の日々かもね」ともう一つ、
提案したタイトルがある。カルメン・マキの曲から引いた「山羊にひかれて」だ。
山羊にひかれて ゆきたいの
遥かな国までゆきたいの
しあわせ それとも ふしあわせ
山のむこうになにがある
愛した人も 別れた人も
大草原に吹く風まかせ
山羊にひかれて ゆきたいの
思い出だけを道連れに
しあわせ それとも ふしあわせ
それをたずねて旅をゆく
(作詞:寺山修司)
しばらく休載して、また書きたくなったら、
次はこのタイトルで連載をはじめようと思う。
111回、読んでいただきありがとうございました。