■俳諧「奴凧」
ハマナスや近くで遠い国後島 佐藤 春生
急せかされつもうひと仕事夏至の夕 吉沢緋砂子
夏休み白紙の予定夢を詰め 川上 壮介
かなかなはいじらしきほど小さきなり 勝 太郎
とりあえずビールと言える至福時 小林 今浬
蟹の子の磯辺の迷路知りつくし 松山 我風
■短歌「合歓の会」 久々湊盈子 選
朝顔の初花ひらき列島に酷暑の夏の百日ももかはじまる 《選者詠》
どこまでも清すがしき白磁、砥部焼の花瓶に呉須手の線が息づく 木村 博子
温泉にて初のあかすり外国とつくにの女(おみな)の前に裸体をさらす 荘司 幹子
朝ゆけば睡蓮の咲く池の端夕べ歩めばゆうすげの花 助川さなえ
カシミヤのセーター手にして思えるは産地二国の戦の事情 野口 貞子
帰宅する頃合いはかり門口に夫待つわれもいつしか傘寿 羽毛田さえ子
豊かなる声量もてる指導力合唱の調べさらに引き上ぐ 天野 克子
■川柳「暁子の会」 米島暁子 選
母の読む童話子の目を輝かせ 《選者吟》
好き嫌い越えて空気になる夫婦 髙橋 和男
好物が並ぶと母の笑顔増え 福家 昭惠
もどかしい曇りガラスの君の愛 桶谷 康子
好きだから続けてこれた芸ひとつ 鈴木 綾子
ガラス玉妻がつけると本物だ 吉田 貞惠
肘鉄にガラスのハートくだけ散る 津田 健而
おそろいのコーヒーカップめおと色 山崎 君代
あの彼女好き好き好きよ大好きよ 谷畑 顕
伸びやかな筆使いにはスマホ負け 真田 宣子
ガラス戸を拭くと近くに初夏の風 藤ノ木辰三郎
■つれづれ句会 ― 投句 ―
大ハスに注視するや無限の大地
ねむの花花蕾からいに夜雨朝あした咲く 輝
ピアニストの指を真似する夏の曲 はる江(長野県)
祈り込め朝顔に水注ぎけり
アンダーパスより次々湧き出る日傘かな
撫で肩に汗で貼り付くストラップ 旦 暮
七月未明窓を開ければ街の音
雲の峰モンサンミシェルの姿真似 佐藤 隆平
小暑かなコインを入れて買ふ野菜 住 子
コーヒーの粉は多めに梅雨明くる 裕 子
朝まだき手水に浮かぶ花菖蒲 節 子
電柱の好きな雉鳩明易し かほる
大川を行き交ふ舟も夏の色 幸 枝
本土寺や緑の中に竹の径 晴 美
久々にマニキュア紫陽花満開に れい子
海の日や亡父恋ゆる里心 美智子
炎庭に扇の形に羽広げくつろぐハトと目線を交わす
さわさわとささの葉ゆれて願い事ささやき交わして梅雨明け間近か 風知草
角膜を再生中と老人は片目の犬をなでつつ語る
高原のロッジ屋根打つ雨音を眠れぬままに夜の底で聴く 一 蝉
梅雨空がメヒコに届いて洪水騒ぎ
盆ちかく古き友みな風になり 雅 夫(メキシコ)
ピンピンコロリ目指して今日もサプリ食う
枝豆が実った今夜はずんだ餅 しげみ
あぢさゐのあおくおほきな玉揺する 火 山
今日も又香魚溢れる俺(おら)が魚籠(びく) 敬 直
梅の雨猫と一緒に大あくび 紀 行
どくだみに母屋とられて仮住い 一 憲
ええ冥土願う寺爺(じじい)や苔守(こけまもり) 彦いち
梅雨晴れ間ベランダ越しに話咲く 荘 子
妖精が舞い下りしかなエゴの森 藍
光琳の燕子花咲く知立ちりゅうかな ちか子
六月やねじ巻く昭和古時計 光 子
横丁のネオンが滲む梅雨深し かおる
本を閉じ耳にかすかに梅雨の音 美 公
国衛まもりマーチの演奏桐の花 恵美子
昼顔や汗をぬぐいつついやされる かもめ
セミ鳴きて雲のいただき夏来たり
まつり来るセミを求めてムクドリが お太助
若いのにオイと呼ばれて老実感
年金に立憲示せあんこの案 沖 阿
■莢 (さや)の会 ― 投稿 ―
アカダであたし 東 恵子
つゆ明けらしき真昼 アカダであたし
首のありようを 失う グラリ グラリ
右へ右へ 左に左に 後ろに後ろに
時には優しく頬をはさんで 首の位置を
直される
あ、もっと短く 短くしてください
ジーンセバーグのヘアスタイルのように
誰?!ですか ジーンセバーグ……
よくできた若主人は一瞬戸惑う けど
穏やかに鏡を向ける
あ いい このカットで いい
誰です? ジーンセバーグ
フランスの女優さんかしら、セリフが変わってた
アカダであたし 真夏の爽快感を 取得
何とはなしに 心まで正され そうかそうよね
介護の体制は素直で優しい年寄として臨むのね
アカダであたし
殊勝な心掛けまで 取得したことになる
幸せの国 永田 遠
どこの国の人だったろう?
昔の人が書いていた
戦乱なき世に生を受け
かく生きて来られしこと
これ我が人生の幸いなり、と
考えてみれば
私の父は兵隊だったし
少女の母が暮らしていたのは
棄て置かれた焼死体が散乱する町
二人はとうに亡くなり
息子は妬み深く陰気な老人となって
冷たい食べ残しのような人生を送っている
このまま日本が
戦争をしない国であり続ければ
私も一つの幸せを得て
この世を去ることができるのか……
遠い時代、どこかの国の
幸せな人
その幸せの価値を
知っていた人