■俳諧「奴凧」
伊賀上野ちびっ子忍者に花吹雪 佐藤 春生
さりげなく枝ぶり競ふボケ盆栽 吉沢緋砂子
鯉のぼり尾びれ追いかけ子も走る 川上 壮介
夏蒲団たよりなげなる軽さかな 勝 太郎
寄合いに議題はさて置き冷し酒 小林 今浬
世の隅にありて幸せかしは餅 松山 我風
■短歌「合歓の会」 久々湊盈子 選
軒を這うあけびの蔓の若みどり五月のひかりに濡れいるごとし 《選者詠》
廃屋に栄華をしのばす庭のありカラスノエンドウ群れ覆いたり 鈴木 暎子
ユニコーンの角で突きたき奴がいる地球に四人鮎に串打つ 石川 功
宿の窓開け放ちみればせせらぎにつばめ飛び交いほっと安らぐ 津田ひろ子
愉英雨ゆえいうに狭庭の牡丹もほころんで道ゆく人の声を聴くらし 野上千賀子
白き花つけて日ごとに伸びてゆく流れのクレソン苦味も増して 角本 泰子
■川柳「暁子の会」 米島暁子 選
王様の椅子は堅くて座れない 《選者吟》
真っ赤なポルシェ婆ちゃんがぶっ飛ばす 髙橋 和男
手が震え封が開かないラブレター 福家 昭惠
家族中受験結果のメール待つ 桶谷 康子
青春は大揺れ今も少し揺れ 鈴木 綾子
母が逝き貧乏揺すり絶えぬ父 吉田 貞惠
代替わりした古里が遠くなる 関 玉枝
ふる里を転勤族の子は知らず 津田 健而
おめでとう君の受賞におくる花 山崎 君代
五香には桜多くて楽しみだ 谷畑 顕
ホッペタに花びら当たる風の中 真田 宣子
おどろいた瑞穂の国に米が無い 藤ノ木辰三郎
■つれづれ句会 ― 投句 ―
地にのこる出店のあとにさす緑 昌 恵
夏落葉踏み身ほとりの話かな 三香子
水音に重なる人声夏木立 住 子
読経の声も流れし若葉風 裕 子
足取りは木魚のリズム風五月 かほる
花楓飛んで明日をまた生きる 幸 枝
菖蒲田に寡黙に二人作業して れい子
花色に流行りあるらし夾竹桃 美智子
聖五月空へ突き上ぐ大樹かな 孝 子
いたづらに湯に葉を落す青嵐
花は散りとげするどきの紅のバラ 輝
茗荷竹今宵の肴に色添える
庭じまい花木はなきに向い手を合わす しげみ
歯医者にて隣の台の盛大なガラガラうがいの主を羨む 風知草
百日紅枝打ちされし切株に若葉芽吹きて待たるる盛夏
新緑の若葉の空に浮浪雲流れ流され追いつ追われつ 一 蝉
しっとりと心にしみる夏の雨 はる江(長野県)
薔薇黄色じっと見つめるひとときよ
一週で取り合う陰に棚の藤
ビル墨絵音無き梅雨を人急ぐ 佐藤 隆平
復活祭明けて卵を独り剥く
スギ薬局のチラシを探す薬の日 旦 暮
桜餅夢でもいいから舌先に 雅 夫(メキシコ)
週末は息子の手料理初ガツオ
花吹雪肩組帰るをみなの子 火 山
新緑や小鳥啄む一滴 美 公
胸を張り靴音高く初出勤 敬 直
旅すれば里の瀬音に春の色 紀 行
むくむくと窓辺の緑起き上がる 藍
障子戸の向こうに春の座りける 荘 子
菜の花と満天の青白ひらり 一 憲
僧坊の花の御膳や湯葉料理 光 子
生生と生きる身晒し山笑う 彦いち
行く春を惜しみ散歩の歩を伸ばす ちか子
病床や流れる雲の春の窓 かおる
蕗の葉にやわらかき風戯れり 義 明
垂れ桜川面の風とくつろけり 恵美子
酒蒸しにおちょこ二杯で酔いまわり お太助
鳩の群れ同じ姿勢で憩ふ庭
さわさわと樹木の揺れる五月晴れ 卯 月
赤帽は軽貨物の配達人
めくる札何がでるのか大統領 沖 阿
■莢の会 ― 投稿 ―
青葉の季節 永田 遠
葉擦れの音が
風に乗って
波のように寄せてくる
小鳥の声が
砂の中の
貝殻のように
あそこに……また……ここに
波のかなた
空の向こうから
ドオッ、と聞こえてくるのは
あれは
風の又三郎?
ガンサイボーの行くえ 東 恵子
紫蘭 切り花 紫蘭
きゃしゃな茎二本と幅広の葉四枚
紅紫色の花はすでに二つ三つ 寄りそって
すごく可憐な ブーケ
チッチの帰るところは ここ ここしかない
ある日とつぜんガンサイボーが暴れだす
かも知れない
それが三か月先か 三年先か
チッチは84歳だから 進みぐあいは
ゆっくり どうかどうぞ ゆっくりと と
祈る
紫蘭の花序は無限花序 花茎の下の方から
じょじょに開いて行く
てっぺんの蕾が開くのは いつ
切り花 紫蘭 ついつい祈りをこめて
みつめてしまう
患者は無力 入った時よりも出る時のほうが
症状が深刻なのは なぜ
少女の詩 湊川 邦子
『こんなお父さんが好き』 この詩は
40数年前の雑誌の切りぬきから………
この少女の出身地は どこだろう
こてこての方言が また涙をさそう
出かせぎにいく とうちゃん
自動車の部品つくりして
けがしんなえ
かわったことがあったら てがみよこっしゃい
けがをしたら おらあ、ふっとんで東京にいく
でもけがしないで、はやくかえってこらっしい
おらあ、「かもう」までだけりゃあ、むかえに行くで
くるとき あまり たけもんなんか
かってこぬたって いやあで
かってくるぶん らくをしていいで
とうちゃん
40数年たっても まだ 目がしらが熱くなる
少女の 父を思う心根の深さが 堪らない