■俳諧「奴凧」
黄砂飛ぶスカイツリーを隠しけり 佐藤 春生
あるじ去り庭で柚子の実しのび落つ 吉沢緋砂子
花曇り猫とこどもと丸まりて 川上 壮介
風船を持つ手駆け出す母の膝 勝 太郎
忘れ霜つぎつぎ消える赤提灯 小林 今浬
吐ついていい嘘のひとつや四月馬鹿 松山 我風
■短歌「合歓の会」 久々湊盈子 選
生きるとは昨日のわれを担になうこと一本ずつ歯が失せてゆくこと 《選者詠》
三本のケヤキが見える窓が好きバス待つ駅のパン屋の窓が 黒沼 春代
昼下がり立ち去りがたき天主堂五島椿に引き留められて 大江 匡
日表ひおもての地中からぐんと顔を出す青の風ヒヤ信子シンス眠りから覚め 津田ひろ子
新学期われも倣ならえと支援受けデイサービスに汗を流せり 野上千賀子
免許証の返納先に延ばすのは夫のアッシー続けんがため 角本 泰子
■川柳「暁子の会」 米島暁子 選
汗を積み芸を積み上げ今がある 《選者吟》
帽子手に花びらを追う子らの春 寺澤 秀典
魚より肉が好きだと孫が言う 血矢 行男
鮭が好き食べてた母は百寿超え 鈴木 綾子
春風にブラボー感謝卒寿です 板橋 芳子
春が好き両手広げて風を抱く 木間 弘子
春風へ娘のように喜寿の恋 髙橋 和男
花ふぶき風の流れが後を押す 花嶋 純代
ふところに涼しさ運ぶすきま風 花島 和則
それぞれが夢を追いかけ通学路 中山 秋安
■つれづれ句会 ― 投句 ―
朧夜や探しあぐねる備蓄米 昌 恵
日の眩し芽吹きに若き気を貰ふ 住 子
春の雪出番待つかにトラクター 裕 子
ひといきに桜前線走り出す 節 子
花冷えや呟いてみる国ことば かほる
トランプにジョーカー二枚四月馬鹿 幸 枝
雪解けて静かな川も歌い出す 晴 美
里帰り菜の花夕日にまみれ咲く れい子
花落とし雨となる日の静寂かな 美智子
侘助や雪の花冠り小鳥呼ぶ
さくら草こぼれ種から芽吹き咲く しげみ
白杖と春風浴びに裏庭へ
真夏日が夜は砂漠から冬の風 雅 夫(メキシコ)
春昼やまた到着の我孫子行き
春コート犬後になり先になり 旦 暮
今年も似たり花見に倦いて日々静か
霧晴れた富士が目の前でかいこと 佐藤 隆平
天晴れや子ガモよちよち生きのびよ
桜茶や母なる娘うつむきて 輝
切り株の洞にタンポポ二、三輪黄色い帽子が行き過ぎる 風知草
病院の往き来に困憊春の風邪 火 山
もらい泣く旅立の君春嵐 美 公
箱車園児鈴なり春うらら 敬 直
新学期文具売り場は希望色 光 子
夜なべする母の記憶やなごり雪 一 憲
北へ旅春の行方を訊ねつつ 紀 行
「大丈夫」口癖になり再々また春になり 彦いち
筑波嶺の纏ふむらさき春霞 かおる
人生の節目あつめて弥生かな ちか子
六合りくごうの桜並木の笑い声 荘 子
いつの間に木々の新芽のかのこ空 藍
梅枝に馴染みの小鳥雪が降る 義 明
この道は三月十日東京大空襲町遁のがる 恵美子
帰り道気持ち豊かな心地して手提げ袋に図書館の本
染井吉野散りし後には八重桜桃色提灯春風の中 一 蝉
福寿草心慰さむ花の色
夕の雨傘さして見る桜かな はる江(長野県)
夕月夜魅せられ見入る春の入り
九階に蟻一匹の散歩かな 卯 月
ブレンド米古米入りとは言いづらい
原発に猿の惑星未来には(廃棄処分は) 沖 阿
■莢さやの会 ― 投稿 ―
あたしたち共に 84歳 東 恵子
Aさん ガラス戸のむこうは
どんより曇っているか 雨もようか
なかなか 青空が のぞめません
Aさんの父上が 胃の⅕を切除して
胃癌を克服なさって 晩酌を嗜まれるまでに
なられて 89歳で逝った 手術は84歳のころ
医学は日増しに進歩している
夫は今 千葉西総合病院の6階 入院したて
夫は 今 あたくしと同じ84歳
夫はしきりに Aさんの父上の退院直後の
様子を伺いたいと思っている
例えば お家のかたと どんな話をかわされて
いたのか。読書は テレビは ラジオは……
お父上の静かな お背中の 気配はいかが
だったのか Aさん Aさん
夫は今 「男の死にぎわの美学」を探っている
のでしょうか ああ いやだ いやだ
妻は今 懐紙に「彩果の宝石」を 広げ
次にどのゼリーにしようか 考えている
春愁 永田 遠
頭をつかうのは
倹約のことだけで、あとは
日永の一日を
ぼんやりしたり
お茶を飲んだりして
過ごしている
雨にぬれてる
さくらの色をながめつつ
このデクノボーは
褒められもせず
この世も去れず、などと
呟いている