那須から東京の自宅に戻って一年あまりが過ぎた。

ついに私にもリタイアの日が訪れた! そう思っていたのだけど、

なぜかまだ仕事をやっている。しかも、これが結構、忙しい。

こんな自分に、自分で首を傾げている。

どうして、私はまだ、仕事をしているのだろうか?

どういう経緯で、仕事が続いているのだろうか?

そう思うのだけれど、ここに至るまでの経緯が私には思い出せない。

にもかかわらず、目下のところ、

当たり前のように担当者の方とメールのやり取りをして、

当たり前のようにいろんな人と会っている。

しかも、原稿を書くだけでなく、対談の仕事までやっている。

相手の方は、現在、世の中で活躍中の方や、巷で話題になっている方たちで、

いわば、私はインタビューの聞き手役なのだ。

正直いって、取材者として相手に向き合うのと、対談者として相手と向き合う

のとでは、ずいぶん違う。

対談するためには、事前にいろんな資料を読んだり、相手の方に著書があれば、

それを読んだり、パソコンでその方のことを調べたりして、準備をする。

これは思っていた以上に大変で、忙しい。

いってみれば、不慣れな新しい仕事にもチャレンジしているわけだ。

こういうことをよく考えもしないで、頼まれるまま引き受けてしまった私としては、

目下、この事態にうろたえている。

それでも、引き受けた以上は頑張らねばならないし……。

頑張らねばならないのだけど、なぜ、自分がこういうことになっているのか、どうしても腑に落ちない。

移住したはずの那須高原での暮らしに終止符を打ち、

空き家となったまま放置していた東京の家に戻ってきた私は、

人生の晩年をより平穏に、よりのどかに暮らしていくはずだった。

なのに、なぜ、私は仕事をしているのか?

こういう私って……いったい、なんなんでしょう?

なんとか、一人で、誰にも、なんにも言われずに、

気ままに暮らす生活を続けていきたいと思っていたのに……。

どうも私には、どうすればそういう堅気の高齢者として日々を穏やかに送れるのか、

そのノウハウが身についていないようだ。

そんなわけで、

東京の元わが家にせっかく戻ってきたものの、いささか途方に暮れている。