空き家になった東京の自宅に戻ってきた。

けれど、

なにやらだらだらと続く尋常じゃない今年の夏の暑さに遭遇してしまった。

すると「もうワタシ、人生に疲れ果てた!」みたいな状況になった。

私としては、ひたすら自宅でひとり横たわって過ごしていた。

「年齢も年齢だし、もう立ち直れないかも……」

と、最初は思ったりしていたのだけれど、秋の到来とともに元気を取り戻しつつある。

おかげで、ようやくホッとしている

一時は、鏡を見る度に「あらら、顔がとんがってきたじゃないの」と思っていたのに、

なんだか少しふっくらもしてきたように思う。

それに従い、

「那須に移住して6年も暮らしたんだなあ」ということが、

なんだかもう遠い遠い昔の出来事のようにさえ思えてきてもいる。

そもそも「なんで、私は、那須に移住しようなんて思ったのか」

今や、もうそのことさえ、よく分からなくなってしまった。

そんな事態ではあるけれど、

よくよく振り返ってみれば、那須での暮らしは、楽しかった。

十分すぎるほどに……。

とくに、高原のあちこちをひとりで車を走らせて、ドライブに明け暮れる日々を過ごしたのは、

何にもかえがたいことだった。

途中で、素敵な喫茶店を見つけてコーヒーを楽しんだり、

知らない人と何気なく話をして、別れたり、

思いがけなく小さな美術館を見つけて鑑賞したり、

美味しそうなパン屋さんを見つけて、ここだ、ここだ、みんなが言ってたお店

だ、と気づいたり……。

あこがれていたことがいろいろ体験できた。

「ああ、なんて自由な日々だったのだろう」とさえ思う。

そもそも私の運転の技量では、都会で車を運転するのは、絶対、無理。

那須では、山道を運転していてもほかの車とすれ違うことがほぼなかったし、スピードも出さないので、

さすがに事故は起こりにくい。

それでも、私の場合は、山道の側溝に車のタイヤがはまって動けなくなり、クレーン車を頼んだなんてことはあった。

その事件は、たちまちみんなに知れ渡り、あの人もこの人もやってきて、

気がついたら、見物人に囲まれていた……。

そんなこんなで那須での生活は、私にとって、思いがけないいろんな刺激、

そして収穫があった。

おかげで那須暮らしの体験をベースに、小説を一冊、書き下ろしたし、

ヘルパー学校に通って、介護ヘルパーの資格も獲得してしまったし、

なによりも、友人が増えた。

いつでも那須に遊びに行って、泊まれる場所もできてしまった。

それやこれやを思うと、

私はなかなかにちゃっかりと生きてきたのかも、と思うこのごろだ。