いきなりヤマダさんがやってきた!
携帯電話に履歴があったので、「なんのご用?」と電話を返してみたら、
「今、那須に来てるんだけど、今夜、飲みますか?」と。
と言っても、お酒飲んじゃったら、どうやって帰るの? ここは那須は那須でも、
那須の僻地だよ、と思ったら、キャンピングカーをその辺にとめるから、と言う。
おお、家ごと、ヤマダさんが……とあっけにとられていると、
夕方、その辺の温泉で汗を流してさっぱりした彼がやってきた。
しかも、秘書のSさんと一緒に…。
つまり、家ごとと言うより、彼らは事務所ごとやって来たのだった。
さて、このヤマダさんとはだれか?
彼とは、4LDKのフツウの家で、「医療行為対応型シェアハウス・ナースさくまの家」という、
画期的なことをやっている佐久間さんの紹介で、一緒に池袋で飲んだのが、最初の出会い。
これがほんの数か月前のこと。
この飲み会で、飲んだ勢いで、彼が率いるケアの研究会で、
私が編集した「100人の介護士のインタビュー本」の出版記念講演会を
共催してくれることになったのだ。
さらに、これまた飲んだ勢いで、私の住む那須のサ高住(サービス付き高齢者住宅)で、
介護仲間の夏合宿をやることになり、実に風変わりな面々を十人ほど率いてやってきたのだ。
この衝動的決断の速さが響き合ったのだろうか。
なにやら、旧知の間柄の気分に。
このヤマダさんは、かつては紙オムツの会社を経営し大もうけをしたんだそうだ。
それが、介護業界で名高い三好春樹さんの提唱する「オムツ外し運動」に共鳴し、
その運動をやっているうちにオムツ会社をつぶしてしまい、
今は、介護業界に幅をきかせる機械浴に反対し、
介護の楽な個浴用のお風呂を広めるために全国を回っているのだ。
私は、この「オムツ外し運動で、会社をつぶした」話がものすごく気に入っていて、
聞くたびに大笑いしてしまうのだ。
大笑いしつつも、高齢者施設などで一度オムツを付けたら、
死ぬまでオムツを外してもらえないニッポンの介護現状を
なんとかしようとしているヤマダさんとその仲間たちのココロザシに打たれ、
高齢者のはしくれとしては、泣きそうになってしまうのだ。
この夜、ヤマダさんが言った。
「でさあ、那須の元朝小に事務所設けてお風呂のショールーム、作ろうと思って」
というわけで、ヤマダさんは、廃校になった小学校の教室で
シニア人形劇団を立ち上げようとしている私の隣人になってしまうらしいのだ。
「家はどうするわけ?」
「いやあ、キャンピングカーがあるからさあ」
オムツ会社をつぶす前の裕福な時に購入したキャンピングカーには、トイレもキッチンも
なんと電子レンジもついている!
放浪タイプの私には、なんともうらやましいライフスタイルなのである。
私も、もう少し若かったら、
キャンピングカーで全国を人形劇をしながら周りたかったのに……と思う。