のんびり暮らそうと思って、那須に移住したというのに、
今年の夏ほど多忙だったことはない。
ともかく、この私が(と言っても他人の目にどう映っている私なのかは、不明だけれど……)、
地方に移住! サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)なるものに引っ越したゾ!
というのが、まわりに衝撃を与えたらしい。
引っ越して以来、次々と知り合いがやってきた。
その始まりは、以前に「おひとりさまの旅」ツアーで知り合った同世代が、
体験入居なるものを申し込んで、突然、「来てみたわよ」と現れたこと。
続いて、「夫と二人旅」の途上で友人が立ち寄り、
かねてより那須のサ高住に住みたいと思っていたのに、
夫の不決断で果たせないでいると言った。
「ねえ、言ってよ、この人に」
でも、妻の彼女に「一人になったらおいでよ」なんて、夫の前ではねえ。
それから、大学時代の親友たちも、即刻、誘い合ってやってきた。
この同級生たちには、
「ねえねえ、ゲストルームをとる? 素敵よ。入居者の友人は安くなるのよ」と言ったら、
「どうせ、飲んでしゃべり通す夜になるのだから、あなたの部屋に泊まるわよ」と。
ほんとうに、お隣の牧場のカフェでランチとソフトクリームを食べた以外は、
一晩中、部屋でしゃべり通し、笑い通しで帰っていった。
さらに、東京の人形劇の仲間たち。
この方たちは見た目にも異色の方たちなので、こちらがハラハラするほど目立った。
もちろん「ゲストルーム」などには見向きもせず、
私の部屋で、合わせて五人が雑魚寝状態に。
しかも、サ高住の有志が立ち上げた廃校小学校の再興プロジェクトのオープンの日には、
アコーディオンを鳴らし、
色とりどりの衣装をつけてパレードに参加して盛り上げてくれたのだった。
夏休み公演には、別のメンバーがやってきて、那須の入居者有志たちとともに、
音楽人形劇の公演を行い、この地にシニア人形劇団を立ち上げる契機を作ってくれた。
その公演には、友人のそのまた友人の口コミで遠い黒姫山で、一人暮らす女性が、
「私、チェロを弾くわ」と言ってやってきた。
彼女は、この冬には入居するとかで、私と同様の衝動的決断をしたらしい。
きわめつけは、取材途上で知り合った介護職の人たち11人、
「そうだ、夏の合宿は那須でやろう!」とやってきた。
こちらは、近くの貸別荘を丸ごと借りて合宿を決行。
わがサ高住の自由室で、みんなで勉強会をやって、夜には食堂で懇親会、
十分に飲んで盛り上がった後で、また貸別荘でも飲み明かしたらしい。
私の移住に大反対していた息子まで、「みんなで行こうかなあ……」と言い出したので、
「でも、でも、那須の夏の道は渋滞がすごいし、来年にしたら?」と遠慮してもらった。
そして、やっと秋になった……。
入居者のみんなが言う。
「入居したての一年目は、みんなこんなふうよ。来てみれば安心するし、
なるほど、こういうところね、と思ってくれるから」と。
でも、こういうところって、どういうところなんだろう?
ともかく、「歳をとったら同世代と自由に暮らすに限る、話が合うし。気楽だし……」、
ま、これが私の実感的感想かな。
そうこうするうちに、寝室の窓のそばのどんぐりの木が、青い実をつけ始めていた。