◆俳諧「奴凧」

雪渓を渡る冷風神の風      佐藤 春生

目落しの長老茄子は味噌いため  吉沢緋砂子

鰻屋の土間に明治のつるべ井戸  鈴木 翠葉

日盛りや襟元凛と立つ老女    島村小夜子

夏祭りサンバの肉弾迫り来る   石原 桂里

傘寿喜寿共に白髪の夏の果    平井喜美子

百日紅夜風相手にフラメンコ   小林 今浬

麦秋の刈田に妣ははのにほひあり 小檜山游生

落し文誰も来ぬ間に拾ひたし   湯浅 辰美

 

◆夏日俳句会     望月百代選

盂蘭盆やみしりことりと亡母の音 《選者吟》

黙々と泳いでをりぬ広島忌    岩下三香子

百歳の媼のはなし浮いて来い   大石 洋子

八月十五日今もどこかで燻る火  太田 住子

精霊とんぼ飛んで東京がらんどう 小川トシ江

球児らの攻守交替夏つばめ    長木 和代

緑陰や先行く人の名を知らず   川上 孝子

夏安居控へ目に鳴る今朝の鐘   菊井 節子

つややかな宮の玉砂利終戦日   北原 弘子

封をする封書の湿り夕野分    熊谷多恵子

朝顔や始発電車に人送り     河野 悦子

背凭れに深深凭る終戦日     古在 路子

ざぶざぶと素麺さまし昼餉かな  佐薙 拓三

東京は下町が好き新豆腐     菅野 裕夫

フクシマと言われたく無し雲の峰 鈴木瑠美子

黒南風や乗り継ぐ列車検索す   築  幸枝

雁渡し名もなき寺の太柱     恒任 愛子

八月十五日あの日と同じ空であり 西岡千代子

薄命の母に会ひたし月見草    畑  由子

地虫鳴く娘へ更年期来てをりぬ  間部美智子

切れさうな草にふれたる秋旱   丸澤 孝子

かなかなや黙の流るる形見分け  梁原 善子

人は人何故に憎むや天の川    山本順一郎

暑き夜や耳になじみし深夜便   米倉 典子

桃剥くや母の話に耳貸して    渡辺 紀子

9月風景850

◆短歌「合歓の会」 久々湊盈子選

手に重きむらさきぶどう吉備津より

はやばや今年の秋が届きぬ     《選者詠》

 

故郷上海嫌いていつしか九十路(ここのそじ)

胡弓の響き今はなつかし     川島 光子

 

公園におきざりのボール雨に濡れ

少年の声も聞こえずなりぬ    津田ひろ子

 

今年まためぐり来し夏アサガオの

古代紫おおきくひらく      大江  匡

 

夜の庭に見上げる月は泳ぐごと

雲間を流れかくれんぼする    矢部 慶子

 

新憲法を学びたる日の黒板の

「自由」という文字いまに忘れず 田口 光子

 

◆川柳「暁子の会」  米島暁子選

まだ燃えるものあり百の好奇心   《選者吟》

ガーデンと名を変えた沼町おこし 桶屋 康子

大賀蓮命つないで咲き誇る    板橋 芳子

今年こそ静かな沼であってくれ  中津 和子

底知れぬ沼に住む主見てみたい  鈴木 綾子

長生きをしたいから足鍛える   江川 輝子

元気よく駆けてみたのに膝痛む  寺前 絢子

世話人は足を出さずに喜ばす   谷畑  顕

沼の底見ているような不倫劇   福家 昭恵

 

◆つれづれ句会 ―投句 ―

腹立てて荒く使いし団扇かな

見上げては媼のなげき良夜かな   稲 子

 

宝剣岳(ほうけん)は濃紺の夏貫けり

間昼間の音なき街の暑さなか     剋

 

叱られた顔とも見えず昼寝の子

手花火に屈む親子の面輪かな    三 島

 

ほろ酔いて会話はずむ夏の宵

夕暮て蝉鳴くや夕餉の支度     かもめ

 

スポーツにキラリ新人現われる

東北に元気もたらす夏休み      龍

 

休暇明けにぎわい戻る通学路

公園で妻と見ている鰯雲      とにお

 

防人の銃後を守るや夾竹桃

身はやくざ極々薄きサングラス       鳴 砂

 

朝涼や笑顔挨拶老の人

朝涼や大の字寝する茣蓙の上    清水 茂

 

風もなく夕日の中の芒かな

木犀の積もりし花よ金の色     眞 美

 

夏の夜西に揺らめく「きぼう」見る

夏惜しむ浜辺に子らと波の音    かすみ

 

缶酎ハイ鳥唐枝豆盆踊り

敗戦日平和の花火期待して     金塚武文

 

夏まつり熱気にほほえむ虹二重(ふたえ)

風鈴や昭和の日々のめぐる小夜   卯 月

 

沈みゆく夕日波間に光留め

ほたる狩宇宙のすみっこ子等の声   輝

 

夕映や尚も生き生き夾竹桃

句づくりや今日もひねもす夏籠り  桔 葉

 

揚羽蝶ふんわり老いを楽しめり

寄りそいて地蔵をかこむ彼岸花   トシ子

 

大利根の風によばれて月の客

流鉄の二輌に一人うろこ雲     凡山人

 

老人の車道散歩に急停車

塾の前迎車の列が通せんぼ     曲坂深山

 

核心を避けて説明政府側

戦いは弱いところを狙うんだ    沖 阿