No.36 エゴツルクビオトシブミ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オトシブミと呼ばれる小さな甲虫類は、葉を丸めて“ゆりかご”をつくり、その中に卵を1個産む。種類によっては、そのゆりかごを切り落とすから、それがオトシブミ(落し文)という名の由来だ。
関さんの森には、エゴツルクビオトシブミがいる。この甲虫は、エゴノキ専門のオトシブミで、とくにオスは鶴のように首が長いから、この名が付けられている。早朝、関さんの森を散歩していたら、幸運にもゆりかごを作っているところに遭遇したのであった。
撮影:山田純稔(2017年5月1日)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

No.35 ツマキチョウ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

関さんの庭にある熊野権現の塚で、交尾中のツマキチョウを見つけた。交尾中は翅を閉じているため、翅の裏しか見えないが、写真のような草摺模様をしているため、周囲の草に紛れて見つけにくい。我ながら、よく見つけたと思う。
関さんの森の周辺で、このツマキチョウを見たのは15年ぶり。年に何回も世代を重ねるモンシロチョウやスジグロシロチョウと異なり、ツマキチョウは年1回の発生。それも、ゴールデンウィーク前の、ほんの1週間ぐらいしか現れないから、出合う機会は少ない。オスは、その名のとおり翅の先端(褄先)に黄色い模様があるが、メスには黄色い模様はない。翅の表はモンシロチョウによく似ていて、なかなかとまってくれないから、モンシロチョウと見誤ることも多い。
撮影:山田純稔(2017年4月16日)

No.34 ヤマガラ

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関さんのお庭でヤマガラに出会うことが多い。いつも番(つがい)で「ズィー、ズィー…」と鳴きながら枝から枝へと飛び移り、ときどき地面にも降りている。この日、小枝にとまったヤマガラの写真を撮ってみたら、何かをくわえている。写真を拡大してみたところ、カヤの実であることがわかった。その後、このヤマガラは高いところに移動したが、脚でカヤの実をつかみ、嘴で殻を割って中の種子を食べているようであった。ちなみにヤマガラは『貯食』という習性をもっている。単にカヤの実を食べるだけでなく、地中や木の裂け目などに埋めるのである。埋めたカヤの実は大部分が後に食べられるが、食べ忘れられたものから若木が育っていく
ところで、ヤマガラといえば子どもの頃に縁日でみた「おみくじを引く芸」を思い出す。籠に入れられたヤマガラが、籠から出てお賽銭を入れ、鈴を振って扉を開け、おみくじを引く。学習能力の高いヤマガラならではの芸であるが、この芸が姿を消して久しい。
撮影:山田純稔(2017年3月19日)

 No.33 ジョウビタキ

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今年、関さんの庭では、ジョウビタキ(メス)をよく見かける。どうやら、庭を縄張りにしているようである。写真は地面に降りているところであるが、耕して出てきた虫を食べているようだ。ジョウビタキの他にも、シロハラをよく見かける。
ジョウビタキは冬鳥。夏は、チベット~中国東北部~ロシア沿海州で繁殖し、寒くなってエサが捕れなくなると、日本などに渡ってくる。市街地でも見かけることの多く、「ヒッ、ヒッ」「カッ、カッ」と火打ち石をたたくような声で鳴くことから、この仲間を「火焚き」と呼ぶ。
写真のジョウビタキはメスであるが、オスは色彩がかなり異なり、腹部のオレンジ色が濃いほか、頭部から喉にかけて黒く、背中も黒い。後頭部は灰色で、白髪の翁のよう。能では翁を「尉(じょう)」と呼ぶことから、ジョウビタキの名が付けられたという。一方、雌雄の共通点は、翼に白い斑紋があること。このことからジョウビタキを「紋付鳥」と呼ぶ地方もある。
さて、もうすぐ春。ジョウビタキは北国へ帰っていくが、次の年はオスの飛来を期待したい。撮影:山田純稔(2017年2月4日)

No.32 スズメノショウベンタゴ

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むつみ梅林のウメの幹に、「スズメノショウベンタゴ(雀の小便担桶)」が付いていた。「担桶(たご・たごおけ)」とは水や糞尿を天秤棒にかついで運ぶ桶のこと。上部に開いた穴が桶や瓶を連想させる。黒豆程度のサイズは、スズメの小便を入れるのにちょうどいいということであろう。
スズメノョウベンタゴの制作者はイラガ(刺蛾)類。つまりこれはイラガ類の繭であって、この繭の中で幼虫は蛹になり、やがて羽化する。上部に開いた穴は、成虫が脱出した穴である。
ところで、カイコの繭は糸だけからできているが、イラガの繭は糸でできているようには見えない。イラガの終齢幼虫は糸を吐いて自分のからだを丸く網状につつみ、さらにドロドロした液を網目に塗りこんでいく。このドロドロした液が乾いてプラスチックのような質感をうみだすのである。
なお、イラガ類の幼虫は刺で武装しており、刺されると電撃的に痛い。幼虫については別の機会に紹介しよう。
撮影:山田純稔(2017年1月14日)

 No.31 アカボシゴマダラの越冬幼虫

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アカボシゴマダラという蝶の幼虫は、エノキという樹木の葉が食草。しかしエノキは落葉樹だから、冬になると餌は無くなる。餌が無ければ活動する意味はない。エノキが落葉をはじめると、アカボシゴマダラの幼虫は幹を降りはじめる。
写真は、越冬のために移動をはじめたアカボシゴマダラの幼虫。気温が低いためか、ほとんど動かない。この後、落ち葉の下で冬を越す。やがて、春になってエノキの葉が開きはじめると、アカボシゴマダラの幼虫は幹を登り、葉を食べて成長を続ける。
なお、アカボシダマダラは外来種で、本来は中国に分布する。昆虫マニアによって放蝶され、今や在来種であるゴマダラチョウに代わって、都市部でも普通にみられるようになってきた。
撮影:山田純稔(2016年12月4日)

No.30 ウラナミシジミ

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撮影:山田純稔(2016年11月12日)

 

 

 

 

 

 

後翅の一部がV字形に欠けているウラナミシジミを見つけた。左右対称に欠けているから、これは鳥にかじられた痕で、“ビークマーク”とも言われる。なぜ後翅が欠けているのか? これには理由がある。参考写真を見てほしい。翅の裏側に波形の模様があり、これもウラナミシジミであるが、後翅末端に黒い斑紋と突起がある。これは頭部のふりをした擬態であり、ウラナミシジミを食べようとした小鳥は、この偽りの頭部をパクリ。ウラナミシジミとしては、翅の一部を破られただけですむから命に別状はない。“ビークマーク”は、ウラナミシジミの生き残り戦略が成功した実例ということになる。
ウラナミシジミは、関さんの森では秋になると現れる。ウラナミシジミは南方系のチョウで、県内で越冬できるのは房総半島南部の館山市付近のみ。多化性(年に6回程度世代を繰り返す)で、春に館山からスタートしたウラナミシジミは、少しずつ北上しながら世代を繰り返し、10月頃になってやっと松戸までたどりつく。しかし、やがて訪れる冬を乗り切ることができず、翌年はまた館山からスタート。無駄なことをやっているようだが、たえず分布域を広げる努力をしているからこそ、命をつなぐことができるのである。

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撮影:山田純稔(2016年11月6日)

No.29 キタキチョウ

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撮影(2点とも):山田純稔(2016年10月2日)

黄色いチョウ(キチョウ)には数種あるが、もっとも普通に見られるのが写真のキタキチョウだ。かつては単にキチョウとされていたが、今は南西諸島に分布するキチョウをミナミキチョウとし、キタキチョウは別種扱いになっている。もっとも、外見による識別は困難だという。
さて、今年の秋は雨が多いが、久しぶりに晴れたこの日、関家の庭の萩にキタキチョウがいつになくたくさん舞っていた。幼虫の食草は、ネムノキやハギなどのマメ科植物であるから、ていねいに萩の小枝を探してみる。すると、キタキチョウの蛹が見つかった。その多くは保護色の緑色をしているから分かりにくいが、羽化直前の蛹は黄色い翅が透けて見える。この蛹、きっと明日あたり羽化するに違いない。

 

No.28 クマバチ

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「ブーン…」という大きな羽音をたてて飛ぶ大きなクマバチ。思わず逃げ出したくなるけれど、じつは性格は穏やかでめったに刺すことはない。人にはほとんど関心を示さないから、夢中になって蜜や花粉を集めていたら、じっくり観察してほしい。胸の黄色いモフモフした毛が、とても愛らしい。ところでクマバは“クマンバチ”と呼ばれることもあるが、凶暴なスズメバチを“クマンバチ”と呼ぶ地方もあるからややこしい。そう言えば、ボンゼルス作の「みつばちマーヤの冒険」で、マーヤと戦ったのはクマンバチだったような…。さっそく岩波少年文庫版(実吉捷郎訳,1951年)を読んでみると、こんな一節があった。「……やがてクマンバチのとがった足につかまれていることがわかりました。黒と黄のだんだらになった、その怪物の大きさは、おそらくマアヤの四倍もあったでしょう。」記述から考えると、これはスズメバチであって、クマバチではない。ところが挿絵は明らかにクマバチになっている。温厚なクマバチがミツバチと戦うはずがない。
さらに旺文社ジュニア図書館版(柴田治三郎訳/1968年)では、「……やがて、じぶんはスズメバチの手におちたのだと、さとりました。黒と黄のトラまだらのあるこの怪物は、マーヤのからだの四ばいもあったでしょう。」となっており、挿絵も含めてスズメバチとなっていた。念のために原作で確認すると、MajaをつかまえたのはWespe(ドイツ語でスズメバチ)となっている。
みつばちマーヤが戦ったのは、やはり温厚なクマバチではなく、獰猛なスズメバチだったのである。
撮影:山田純稔(2016年9月10日)

No.27 ナガコガネグモ

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「みのりの森」の草むらに、黄色と黒の横縞模様をした大きなクモがいた。ナガコガネグモというクモで、No.25で紹介したコガネグモの仲間である。コガネグモよりスマートで、縞模様が細い。コガネグモのような攻撃性は無いから「クモ合戦」には使われない。
ナガコガネグモのエサは、おもにバッタ類。網を張る場所も、草むらのバッタがジャンプする程度の高さ。バッタが網にかかると、その振動を察知してすぐにバッタがかかった場所に急行し、糸でぐるぐる巻きにする。こんな時、脚が8本ある理由がわかる。網の上を移動するなど自分のからだを確保するために4本、餌のバッタを掴むために2本、そして糸を出してからませるために2本、合計8本というわけだ。
ところで、ナガコガネグモを見つけたら、網の中央にいるナガコガネグモをツンツンしてみよう。網を前後に揺らすという行動が見られる。天敵から身を守るための威嚇と言われているが、自分も揺れるから目くらましという効果もある。ただし、激しく刺激すると逃げてしまう。
撮影:山田純稔(2016年8月13日)

No.26 ナツアカネ

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アカントンボといえば秋の昆虫というイメージが強い。例えばアキアカネというアカトンボの一種は、6月頃に平地の田んぼで羽化した後、夏の間を高原で過ごし、秋になって平地に戻ってくるから、確かに秋になるとアカトンボの数が増える。また、秋になると成熟して真っ赤になるアカトンボもいるから、秋になると目立つのである。
一方、夏の間も平地にとどまっているアカトンボもいる。写真のナツアカネである。夏に平地で見られるアカトンボで、翅に茶色い模様の無いものはナツアカネである可能性が大きい。正確には胸の模様で見分けるのだが、ここでは触れないことにする。
さて、写真のナツアカネは倒立姿勢をとっている。ほぼ真上から照りつける真夏の正午前後の太陽。強い日射しを受ける表面積を減らすために、このような姿勢をとっているものと考えられている。
撮影:山田純稔(2016年7月10日)

No.25 コガネグモ

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関家屋敷の南側には、かつて広場があった。1967年に先代の武夫氏がもとは畑だったところを「こどもの広場」として市民に提供したもので、広場の南~西には、ケヤキ、エノキ、クヌギなどの大木が育っていた。これらは落葉樹なので、夏の広場は涼しい木陰となり、冬は日だまりとなって、こどもたちだけでなく、お年寄りのゲートボール場としても利用されていた。しかし、道路工事によって広場は二つに分断される。現在は、エノキやケヤキを移植した北東側の部分を「エノキの森」と呼び、クヌギが残った南西側の部分を「クヌギの森」と呼んでいる。
この「クヌギの森」に、大きな網を張り、その中央に黒と黄色の縞模様をした大きなクモがいた。コガネグモである。かつては普通に存在し、コガネグモ同士を戦わせる遊び(クモ合戦)が各地でおこなわれていたが、現在は都市部を中心に減りつつある。千葉県のレッドデータブック(絶滅が危惧される野生生物のリスト)には、「要保護生物」として掲載されている。
撮影:山田純稔(2016年6月19日)

No.24 ホソオビヒゲナガ

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チョウとガは同じ鱗翅目(チョウ目)に属す昆虫である。「チョウは昼行性でガは夜行性」とか「チョウは翅を閉じてとまるがガは開いてとまる」などと言われるが、例外が多すぎてあてにならない。もっとも確実なのは「蝶類図鑑に載っているものがチョウで蛾類図鑑に載っているものがガ」ということになるのだが、そもそもチョウとガを分けること自体、分類学的にはあまり意味はない。ちなみに日本産の鱗翅目は3500種が知られているが、そのうちチョウは約250種で残りはすべてガである。蛾類図鑑でガの種類を探すのは難しい。
さて、関さんの森の林縁で、触角が異様に長いガを見つけた。インターネットで「触角が長いガ」で検索すると、すぐに名前がわかった。翅の色と模様(金色の地にクリーム色の1本すじ)から、それは “ホソオビヒゲナガ”というヒゲナガガ科に属す昼行性のガであった。写真はオスであるが、メスは触角の長さがオスの三分の一程度である。
撮影:山田純稔(2016年5月1日)

No.23 アオオニグモ

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生命は海で誕生し、やがて陸上に進出していった。節足動物でいえば、水中で生息する甲殻類から、陸上で暮らす昆虫が生まれ、やがて昆虫は空中にも生息域を広げていった。かつて地表や地中で暮らしていたクモも、空飛ぶ昆虫を捕らえるために網を張るものが進化していった。
写真のアオオニグモも空中に網を張る。ジョロウグモなどは網の中央に鎮座しているからよく目立つが、アオオニグモは網の中央にはいない。網の中央から四方八方に伸びた糸のうちの1本の先に巣がある。葉を少し樋のように丸め、糸で作った屋根の下でじっと獲物がかかるのを待つ。網に獲物がかかると、その振動を察知してかけつけ、糸でぐるぐる巻きにし、すぐに巣に持ち帰る。だから、めったにアオオニグモの姿を目にすることはない。
写真は、巣にいたアオオニグモを刺激して網に追い出したところ。アオオニグモは美しいクモで、青白い腹部、オレンジ色の頭胸部、薄い緑色の脚が美しい。
撮影:山田純稔(2016年4月23日)

No.22 ツチイナゴ

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2012年9月に開通した新設道路のうち、関さんの森の部分だけは、電柱は擬木ポール、ガードパイプはダークグレーで、ツル植物がからんでいる。関さんの森を通る道路は、まわりの森にあった道路にしてほしいと、私たちが要望した結果である。また、「幸谷交差点」に花壇があるが、これはツツジ等の植え込みになる予定だったものを、より季節を感じられるようにと、これも私たちが要望したものである。花壇に植えられる苗は、松戸市から年に4回に分けて提供され、「すずくさの会」が植え込みなどの作業をしている。
さて、3月20日に花壇の整備をしていたところ、茶色い大きなバッタが飛び出してきた。ツチイナゴである。この時期にこんな大きなバッタにびっくり。普通のバッタ類とライフサイクルが半年ずれており、成虫越冬するのがツチイナゴの特徴で、枯草の時期が成虫の出現期だから、体は茶色。ちなみに幼虫時代は草も緑色だから、体の色も緑である。
撮影:山田純稔(2016年3月20日)

 

 No.21 ウスバフユシャク

幅850ウスバフユシャク

 

 

 

 

 

 

 

 

真冬の関さんの森。ペンキで塗装されたベンチの上に枯葉色の“モノ”が落ちていた。よく見ると、翅があって脚もある。もし落ち葉や樹皮の上だったら、絶対に気がつかなかっただろう。
それは、交尾中のウスバフユシャクであった。フユシャク(冬尺蛾)の仲間は、名前のとおり、冬に活動する。幼虫時代を“尺取虫”として知られるシャクガ科のうち、冬季(晩秋~早春)に成虫となり、交尾し、産卵するのがフユシャクの最大の特徴である。また、メスには翅が無い(写真では、右側がオス、左側がメス)。さらに、成虫は口吻が退化し、一切エサを摂らないのもフユシャクの特徴である。ただし、フユシャク以外にも、翅の無いガや、口吻が退化しているガもいる。
ところで、フユシャクの生殖行動(交尾)は、通常、日没後におこなわれる。だから、フユシャクの交尾を見たい場合は、冬の夜に懐中電灯を照らして森を歩かなければいけない。今回、たまたま昼間に見られたのは幸運であったが、それを幸運と思うのは筆者くらいかも知れない。何も冬の夜でなくても……と思うけれど、冬の夜は天敵が少ないという利点もある。
撮影:山田純稔(2016年2月6日)

No.20 ニワトコヒゲナガアブラムシとヒラタアブの卵

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冬は昆虫にとっては過酷な季節。多くの昆虫は卵の状態で越冬する。中には幼虫や成虫で越冬するものもいるが、葉の裏や樹皮のすきまなどで動かずにいる。
そんな中、ニワトコの冬芽に、ニワトコヒゲナガアブラムシが群がっていた。右上の大きなアブラムシは受精卵から育ったメスで、小さなアブラムシはその子ども。真冬だというのに、せっせと子どもを産んでいる。ちなみに、この時期のアブラムシは生まれた子どもを含めてすべてメス。メスだけで交尾はせずに直接子どもを産む。天敵が活動をはじめる前に、ひたすら数を増やしておくというわけだ。
ところで、アブラムシの傍らに白い細長い粒が二つ見える。ヒラタアブの卵である。ヒラタアブの仲間は、血を吸うアブ(虻)とは異なるグループで、成虫は蜜や花粉を餌とし、植物の受粉を助けている。また、幼虫はアブラムシを餌とするものが多く、その意味でも『益虫』と呼んでいい。ヒラタアブのお母さんは、卵から孵化した子どもたちが餌に困らないように、アブラムシの近くに卵を産んだのである。
アブラムシにとっては、恐ろしい天敵がやがて孵化するわけだが、生き残る手段はただ一つ。食べきれないくらいに数を増やすことである。
撮影:山田純稔(2016年1月17日)

 

 No.19 ツマグロキンバエ

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初冬に咲くヤツデの花には、蜜を求めてハエやアブの仲間がやってくる。そんな虫たちの中に、行儀よく翅をたたみ、複眼に縞模様のある虫がいたら、それはツマグロキンバエである。

ツマグロキンバエの特徴は、何といっても複眼の不思議な縞模様。もちろん個々の眼に色がついているわけではなく、個眼の微細構造に起因し光の干渉によっておこる“構造色”だと思われる。
ちなみに“キンバエ”というと汚物に集まるハエを連想するが、ツマグロキンバエはゾウの鼻のような口器を使って花の蜜をなめる。ヤツデに限らず秋に咲く花で見かけることが多いが、幼虫などの生活史については不明なところが多い。

ツマグロキンバエ400

■多くのハエは翅が「ハ」の字に開くが、ツマグロキンバエは翅を重ねてたたむ。“ツマグロ”の名前は、翅の先端が黒いことによる。

撮影(2点とも):
山田純稔(2015年12月20日)

No.18 ホソミオツネントンボ

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多くのトンボは幼虫(ヤゴ)や卵の状態で冬を越す。しかし、成虫のまま冬を越すトンボが日本には3種類いる。関さんの森で見つけたのは、ホソミオツネントンボ(細身越年蜻蛉)であった。
この日は小春日和。そんな暖かい日は、越冬モードに入った森の中の枯れ枝の先にホソミオツネントンボがいるかも知れない。枯れた小枝そっくりに擬態したトンボを見つけるのは容易なことではない。我ながらよく見つけたものだと思う。やがて冬を森で過ごして春になると、水辺に戻り、眼や体の色も水色になって、交尾・産卵する。
ホソミオツネントンボは、東京都や千葉市のレッドリスト(絶滅の恐れのある野生生物のリスト)では「準絶滅危惧種」などとなっている。千葉県のレッドリストには未記載であるが、ヤゴが育つ水辺環境や成虫が越冬する森が減少する今、個体数を減らしていることは間違いない。
撮影:山田純稔(2015年11月1日)

No.17 ムシクソハムシ

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葉っぱの上に虫の糞かな? よく見ると、触角があるし複眼もある。ムシクソハムシ(虫糞葉虫)という甲虫である。体長3mm。ちゃんと翅があって飛ぶこともできる。気の毒な名前が付けられているが、虫の糞に擬態して自分の体を守っているのだから、むしろ本望であろう。
糞に擬態しているのは、成虫だけではない。産卵時、親は卵に糞をぬり、孵化した幼虫はその糞を体にまとって隠れ家にしているという。さらに、幼虫が成長するにつれ糞の隠れ家が窮屈になる。そこで幼虫は、自分の糞を足して隠れ家を大きくするという。

ムシクソハムシ②400
■頭をひっこめた姿
これを虫だと気づく人
は、かなりの虫通だ。

撮影(2点とも):
山田純稔(2015年10月4日)

No.16 ニホンカナヘビ

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「トカゲがいるよ!! 」という声が聞こえると、疑うことにしている。トカゲではなく、カナヘビであることが多いからだ。トカゲとカナヘビは、どちらもハ虫類で形は似ている。広い意味では、どちらもトカゲの仲間(トカゲ亜目)であるが、 “科”のレベルで、トカゲ科とカナヘビ科に分かれている。
トカゲとカナヘビの見分け方は、色彩や光沢。トカゲはつやつやした感じ(金属光沢)であるが、カナヘビはざらついた感じ。どちらも関さんの森に生息するが、トカゲについてはいずれ紹介する機会があると思う。
さて、写真のカナヘビ、正確にはニホンカナヘビという。身近な爬虫類であるが、千葉県ではレッドリスト(絶滅の恐れのある野生生物のリスト)に「一般保護生物」として掲載されており、都市化の進行にともない姿を消しつつある。「関さんの森の図鑑」では、⑧でモズに狩られたカナヘビ(モズの“はやにえ”)を紹介している。
撮影:山田純稔(2015年9月20日)

No.15 タマムシ

タマムシ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

関家屋敷の北西側の道沿いに、樹齢200年をこえたイロハカエデの老木がある。松戸市の保護樹木にもなっている。10年くらい前、道に張り出した枝に宅配便の車が当たって枝が折れ、その頃から元気が無い。周囲のケヤキやカヤが茂り、日が当たらなくなったこともあるのだろう、ついに今年になって枯れてしまった。
木が枯れるのを待っていた虫がいる。タマムシである。さっそくタマムシのメスが産卵にやってきた。樹皮の裂け目に産みつけられた卵から孵化した幼虫は、穿孔しながら材を食べて成長。2~3年後に成虫になるという。
タマムシは、緑を基調に赤い筋のある美しい昆虫。メタリックで角度によって色が変わる色調は鳥が嫌うため、捕食者から逃れるためにこのような色になったと考えられている。
法隆寺の「玉虫厨子」の装飾はタマムシの翅を使用している。
撮影:山田純稔(2015年8月16日)

No.14 トウキョウヒメハンミョウ

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初夏の関家の庭。足もとから1cmほどの黒っぽい虫が飛び立ち、1mほど先に着地。近づくとまた飛び立ち1m先に着地……。まるでハンミョウのような小さな虫である。ハンミョウといえば、道案内をするかのような動きから“道教え”とも言われる昆虫。関家の庭にいるのは、ハンミョウの仲間のトウキョウヒメハンミョウという昆虫である。
ハンミョウ類のエサは、アリなどの小昆虫。動きの早いアリを、大きなアゴで捕らえる。また幼虫のエサも、アリなどの小昆虫。地面に対して垂直に掘られた穴にすみ、近づく昆虫を捕らえる。この習性を利用し、ニラのような先端が細い葉をハンミョウ類の巣穴に差し込み、釣り上げることができる。これをニラムシ釣りという。筆者はまだやったことがないが、来春チャレンジしてみようと思う。
なお、トウキョウヒメハンミョウの分布は局所的で、東京近郊と北九州に多く、他県には少ないという。山口県では、絶滅危惧種になっているというから不思議な昆虫である。
写真撮影:山田純稔(2015年7月11日)

No.13 コガタスズメバチ

コガタスズメバチ850

 

 

 

 

 

 

 

 

5月28日に幸谷小学校のこどもたちが関さんの屋敷にやってきた。そのとき、蔵の軒下にトックリを逆さにしたような、コガタスズメバチの初期巣を会員が発見。ハチの有無を確認するために棒でつついたところ、外被は壊れて落下し、巣盤のみ残ったという。5月31日に、同じ軒下を調べてみると、女王バチは外被を修復しつつ、幼虫の世話をしていた。その様子がこの写真である。コガタスズメバチはスズメバチ類の中では比較的おとなしい。こうやって接近してレンズを向けていても、写真を撮らせてくれるほどである。しかし、万一、こどもたちがスズメバチに襲われたら大変……というわけで、この後、巣を撤去することにした。スズメバチ類の餌は昆虫である。キイロスズメバチの場合、ひとつの巣にいるスズメバチが1シーズンに捕獲する昆虫は100キログラムになるという。もちろん農業害虫も捕獲してくれるわけで、農薬に頼らない作物を生産するためにも、スズメバチの力を借りたいところ。なんとか人間と共存できないものだろうか。
幅400■コガタスズメバチの初期巣

写真撮影(2点とも):
山田純稔(2015年5月31日)

 No.12 ジャコウアゲハ

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熊野権現脇のキリシマツツジが咲くころ、黒いアゲハチョウが築山のまわりをふわふわ飛ぶ。ジャコウアゲハである。オスの成虫は、ジャコウ(麝香)の臭いがする。ジャコウアゲハが熊野権現の築山に飛来する目的は、ツツジの蜜だけではない。ここには、幼虫の食草であるウマノスズクサが生えているため、産卵にくるのである。この日も少なくとも3頭のメスが、ウマノスズスクサに産卵。調べてみると、葉の裏にオレンジ色の卵が産みつけられていた。 ところで、ウマノスズクサは毒草で、アリストロキア酸などの有毒成分を含む。これを食べたジャコウアゲハは、成虫になってもその毒を持ち続ける。このため、ジャコウアゲハを食べた鳥は二度と食べないという。 一方で、毒を持たずにジャコウアゲハに体を似せる昆虫がいる。クロアゲハやオナガアゲハは、ジャコウアゲハと同じような色彩にすることにより、鳥による捕食をある程度避けることができる。このような擬態をベイツ型擬態という。ちなみに、アゲハチョウの後翅に見られる「尾」のような突起(尾状突起)も擬態の一種と考えられている。触角に似せた尾状突起の部分を鳥が攻撃しても、チョウは致命的なダメージを受けないですむ。

ジャコウアゲハ卵400■ジャコウアゲハの卵

写真撮影(2点とも):
山田純稔(2015年5月3日)

No.11 シロダモタマバエ

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シロダモの新芽に5mmにも満たない小さな昆虫が産卵している。シロダモタマバエである。新芽に産んだ卵はやがて孵化して幼虫となり、シロダモの葉に球状の虫こぶをつくる。一つの虫こぶには幼虫が1頭ずつ入っている。葉の内部にもぐりこんでいた方が、捕食者にねらわれることもなく安全だろうというのが、虫こぶをつくる目的である。 ところが、世の中そんなに甘くはない。ヒメリンゴカミキリの成虫が葉をかじって枯らしたり、台風で葉が落ちることもある。また、シロダモタマバエに寄生するハチがいる。シロダモタマバエコマユバチやコガネコバチは、虫こぶを探し出して産卵し、孵化した寄生蜂の幼虫は、シロダモタマバエの幼虫を食べて成長していく。 無事に羽化した後も油断はできない。成虫の寿命はわずか1日で、外の世界にはクモなどの天敵がいるし、早春だと寒くて飛べない日もある。オスとメスの割合は1:2だから、交尾相手にめぐりあえないメスもいる。ちなみに、シロダモタマバエの1頭のメスは約200個の卵を産む。命をつなぐためには、オス・メスあわせて2頭(1%)が生殖・産卵行動をおこなえば良い。逆に言えば、残りの198個(頭)の犠牲を見込んで、シロダモタマバエは200個の卵を産み、命をつないでいる。
写真撮影(2点とも):山田純稔(2015年4月12日)
シロダモタマバエ葉425

No.10 ミツバチ

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関さんの庭で河津桜が咲きはじめる頃、ネコヤナギ(雌雄異株)も花を咲かせる。花といっても、ヤナギ類の花に花弁は無く、ネコの尻尾状のふさふさした綿毛の間に埋まっていたオシベやメシベが伸びてくるだけの花。雄花の場合は開花すると黄色い花粉が目立つことから、それが花であることがわかる。そして、花が開くと蜜を求めてたくさんのミツバチがやってくる。貯蔵した蜜を少しずつ消費して冬を越したミツバチにとって、やっと大量の蜜を採れるネコヤナギの開花は、待ち遠しかったことに違いない。 ミツバチは蜜だけを集めるのではない。後脚の黄色い花粉団子にすぐに気がつくと思う。この部分を“花粉籠”といい、スプーン状になっていて周縁部に長い毛がはえており、花粉を貯めやすい構造になっている。集めた花粉は巣に持ち帰り、幼虫の餌となる。幼虫の主食は蜜(糖質)であるが、足りないタンパク質や脂質を花粉から得るのである。 なお、写真のミツバチは全体的に黒っぽいことからニホンミツバチだと思われるが、正確には後翅の翅脈を調べてみないとわからない。

写真撮影:山田純稔(2015年3月12日)

No.9 モズ

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関さんの庭で、モズ(メス)の写真を撮ることができた。モズは秋~冬にかけて、オスもメスも縄張りを持ち、単独で生活する。前回、モズの“はやにえ”を紹介したが、あのカナヘビを仕留めたモズは、このメスのモズかもしれない。 ところで、単独で生活するモズも、春になると繁殖の季節を迎える。繁殖期を迎えたメスは、縄張りを解いてオスの縄張りに入り込み、つがいとなる。やがて共同で巣を作って産卵し、メスのみが卵を抱いて温める。その間、オスはメスのために餌を運ぶ。 モズが巣を作る場所は、低木やササが茂った藪の中。いわば人の手入れが行き届かないところである。そのような場所はモズが巣を作るだけでなく、警戒心の強い生き物たちの隠れ家になる。多様な生き物たちを育む森を維持管理するためには、そんな藪を残しておくことが必要。見苦しく感じるかもしれないが、ご容赦願いたい。
写真撮影:山田純稔(2015年2月15日)

No.8 カナヘビ(モズの “はやにえ”)

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砂原保育園(葛飾区)の子供たちは、毎月1回、電車に乗って関さんの森にやってくる。都会で暮らす子供たちにとって、関さんの森は生き物いっぱいの不思議な世界。四季折々、目を輝かせながら森を探検し、豊かな感性を磨いている。 子供たちの目線は低いから、一緒に探検するおとなたちも、あえて低い目線で生き物たちの気配を探す。1月9日の観察会では、地上50cmくらいの木の枝に刺さったカナヘビを見つけた。モズの“はやにえ”である。 モズは“小さな狩人”とも呼ばれる肉食の小鳥。カエルなどの小動物や昆虫などを捕らえて小枝に刺す習性がある。これを“はやにえ(早贄)”と呼ぶが、その目的はよく分かっていない。冬に備えてのエサ確保とも考えられるが、そのまま放置することが多い。 ちなみに、餌食になったカナヘビは、千葉県のレッドデータブック(改定版/2011年)では「一般保護生物(準絶滅危惧種)」である。砂原保育園のある東京都のレッドリスト(本土部/2010年)によると、東京都の区部では千葉県より絶滅の危険性がアップして「絶滅危惧Ⅱ類」となっている。かつては普通に見られたカナヘビも、都市化の進行にともない姿を消しつつある。
写真撮影:山田純稔(2015年1月18日)

 

No.7 ジョロウグモ

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秋になると急に大きくなって目立つクモはジョロウグモ。今年は産卵が遅れ、12月になってもメスの姿をよくみかける。 ジョロウグモの名前は、「上臈(高級女官)」に由来し、後に「女郎(遊女)」に身を落としたといわれるが、少なくともメスであることに間違いはない。オスはメスに比べてはるかに小さく、網の中央にいる大きなメスとは対照的に、網の端の方で小さく居候生活をしている。 さて、上臈にせよ女郎にせよ、人間の世界では派手な生活を送っているイメージがあるが、ジョロウグモの場合は質素倹約生活を実践している。 たとえば、生活のために無駄なエネルギーは使わない。飛んだり跳ねたりして餌を探して捕まえるのではなく、住居兼食料調達用の網を張って、餌が勝手に飛び込んでくるのをじっと待つ。また、網(クモの糸)は、タンパク質からできているから立派な餌。古くなると食べて消化し、それを材料に網を張り替える。見事なリサイクル住宅である。 人間の世界では、経済発展が優先され、生産と消費の拡大が求められるが、いずれ資源が尽きて破綻するのではないだろうか。クモは省エネ・リサイクル生活を続けることによって、何億年も前から命をつないできたのである。
写真撮影:山田純稔(2014年12月7日)

 

No.6 ウラギンシジミ

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季節は秋から冬へと向かい、生き物たちにとっては過酷な季節がやってくる。冬は気温が低いし、エサも少ないからだ。春になって草木が芽吹き、花が咲きはじめると草食の昆虫が活動をはじめ、それを餌にする肉食の昆虫も活動をはじめる。 そんな過酷な冬、多くの昆虫が卵で越冬する中、ウラギンシジミは成虫のまま越冬する。ツバキやアオキなど、厚い葉の裏にしがみつき、春がくるまで100日以上も羽根をピッタリ閉じてじっとしている。写真のウラギンシジミは、1週間前もこの場所にいたから、早くも越冬モードに入っているのかもしれない。 ところで、ウラギンシジミの脚に注目してほしい。昆虫の脚は、たしか3対6本あるはず。ところが、ウラギンシジミの場合は2対しか見当たらない。じつは、ウラギンシジミの前脚1対は、味覚を確認するのがその役割で、からだを支えることには使わずにたたんでいるのである。だから、中脚と後脚の2対しか見当たらないのである。
写真撮影:山田純稔(2014年11月2日)

No.5 チビアメバチ類の繭

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関家の生垣は「混ぜ垣」で、本来はイヌツゲの生垣であったが、今は他種類の植物が混じって生えている。イヌツゲだけだとイヌツゲを食べる昆虫しか来ないが、多種類の植物が生えていると、多種類の昆虫がやってくる。チョウでいえば、エノキが混じっているからゴマダラチョウやアカボシゴマダラが、シロダモが混じっているからアオスジアゲハが、関家の生垣で育つ。関家の生垣は、重要な生き物観察ポイントの一つである。 さて、その生垣で不思議な模様をした5mmくらいの、小さな俵状の繭を見つけた。これはチビアメバチ類の繭である。チビアメバチ類はチョウやガの幼虫などに寄生する小さなハチで、ホウネンダワラチビアメバチの繭が、比較的よく知られている。名前に「豊年俵」という言葉が入っているが、これが多数見られる時は、イネの害虫が寄生されて少なくなり、結果的にイネが豊作になるという。写真の繭は、ホウネンダワラチビアメバチの繭によく似ている。しかし、近縁種も似たような繭を作ることから正確な同定はできないため、チビアメバチ類とした。
写真撮影:山田純稔(2014年10月11日)

No.4 ヤマトシリアゲ

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オスがメスに求愛するとき、プレゼントをあげる昆虫がいる。シリアゲムシの仲間もそうだ。プレゼントは餌で、昆虫などの死体である。でも、雌が食事に夢中になっている隙に目的を達するため、という見方もできる。 関さんの森に生息するシリアゲムシは、ヤマトシリアゲ。かつては珍しい生物ではなかったが、生息環境である草原が減っている都市部では減少している。千葉県のレッドデータブック(絶滅の恐れのある生物のリスト)では、「一般保護生物」として掲載されているし、千葉市のレッドリストでは「重要保護生物」とランクが上がっている。 写真のシリアゲムシは鼈甲(べっこう)色をしていることから、かつては「ベッコウシリアゲ」と呼ばれ、ヤマトシリアゲとは別種とされていた。しかし、ヤマトシリアゲの夏型であることがその後の研究でわかった。 ちなみに「シリアゲムシ」の名は、腹部の先端(尻尾)が上に反っていることによる。写真はメスであるが、オスはサソリのようにクルリともっと反っている。
写真撮影:山田純稔(2014年9月21日)

No.3 アカボシゴマダラ

アカボシゴマダラ850 クヌギの樹液に集まる美しい蝶は、アカボシゴマダラ。アカボシゴマダラは、日本では奄美大島近辺にわずかに生息するが、写真のアカボシゴマダラは、ベトナム北部~中国東部~朝鮮半島に分布する別亜種。いわば外来種である。 しかし、これが1998年に神奈川県で確認されて以来、関東地方を中心に分布が広がり、ここ2~3年の間に、関さんの森でも急激に増えてきた。蝶マニアによる人為的な放蝶が疑われている。 アカボシゴマダラが増えると、どのようなことがおこるのだろう? アカボシゴマダラの幼虫は、近縁のゴマダラチョウ(在来種)と同じエノキを食草とし、成虫も同じ樹液を吸うことから、競合が心配されている。事実、今年はゴマダラチョウの成虫も幼虫もほとんど見かけない。やがて、アメリカザリガニに追われたニホンザリガニのような運命をたどるのかもしれない。 ちなみに、アカボシゴマダラは外来生物法により「要注意外来生物」に選定されている。法律上の規制はないが、捕獲等による拡散防止が期待されている。

ゴマダラ350 ■ゴマダラチョウ 2011年5月22日に21世紀の森と広場(松戸市千駄堀269番地)で撮影したゴマダラチョウ。後翅外縁に赤い斑紋のあるものがアカボシゴマダラ、斑紋のないものがゴマダラョウ。
写真撮影(2点とも):
山田純稔(2014年8月3日/2点共)

No.2 ヒグラシの抜け殻

ヒグラシW850日本の夏を代表する昆虫といえば、セミ。関さんの森には、7月上旬に出現するニイニイゼミからはじまり、ヒグラシ、ミンミンゼミ、アブラゼミと続き、8月になるとツクツクボウシが鳴き始める。 近年は、南方系のクマゼミが鳴くこともある。多くのセミは日中に鳴くが、ヒグラシだけは薄明時に鳴く。夕方に鳴くから「ヒグラシ」と名付けられたが、明け方にも鳴くし、夕立前後の暗くなった時にも鳴く。多くのセミは、その鳴き声を聞くと暑苦しく感じるが、「カナカナカナ…」というヒグラシの声だけは涼しげに聞こえる。 ところで、皆さんがお住まいのところで、ヒグラシの声は聞こえるだろうか。ヒグラシは関さんの森のような、まとまった広さの森にしか生息しない。新松戸の街中でヒグラシの声を聞くことはない。
写真撮影:山田 純稔(2014年7月19日)

No.1 ナナフシ

85 都市に残る森は、姿を消しつつある生き物たちが生活する場所であり、子供たちが生き物たちについて学ぶ場所でもある。関さんの森を育む会は、多様な生き物たちを育む森になるようにと森のお世話をしているが、実際はそんなに多くの生き物たちとは出合えない。 なぜなら、生き物たちは上手に隠れているからだ。天敵に見つかったら食べられてしまう。自然に溶け込んで目立たないようにすることは、命をつなぐ一つのテクニックだ。 関さんの森に暮らすナナフシも擬態をする昆虫のひとつ。その姿は、葉や小枝にそっくりだし、敵に襲われると自ら脚を切り離すことだってする。 写真のナナフシは、ナナフシモドキという種。成虫になっても翅は持たず、ゆっくりと歩く。英名はwalking stick(歩く棒)である。
写真撮影:山田 純稔(2014年6月15日)

 

5yamada■「森の生きもの」案内人… 山田純稔/1956年千葉県生まれ。千葉大学園芸学部卒業。 「関さんの森を育む会」「千駄堀を守る会」所属。小金高 校在職時、中庭にビオトープをつくるなど、都市に残され た自然を守り育む活動に力を入れている。現在、千葉県立 流山おおたかの森高等学校教諭(生物)。